録画 -タノシイネェ- 参
「ボケっとしてんなよ! さっさとアンタもあそこに行けっつの、ボサ子!」
「痛っ!?」
女子生徒に背中を足裏で押すように蹴られ、小さな悲鳴を漏らすボサ子と呼ばれる少女。
その少女から漏れ出る黒い空気を無意識に感じ取っているのか。蹴った女子生徒の強気な台詞を吐く声には、僅かに震えが混ざっていた。
自分より弱者だと思っていたボサ子に不可解な恐怖を覚え、同時にそれが神経を逆撫でてイラつかせるのだろう。
ボサ子は背中に残る痛みに耐えながら足元をよろつかせ、祥太郎と供助の近くへと歩いていく。
体を震わせて怯えた様子で、目には薄らと涙を溜めている。当たり前だ。
暴力を振るわれた上に、取り囲まれて今から何をされるのか分からないのだから。
「な、なにをするんですか……?」
「うっせーな、勝手に喋んじゃねぇよ!」
取り囲みに混ざり、スマホを取り出す女子生徒。
他の二人の女子生徒も薄ら笑いを浮かべ、男子生徒達と共に連れて来たオモチャ三人を見やる。
「喜べよ、お前等。今からお互いに嬉しくて楽しい事をさせてやっからよ」
祥太郎を連れて来た、いじめの主犯格である男子生徒。
心から楽しそうに笑って肩を上下させてから、祥太郎達三人を一瞥して。
「お前ら男二人で、その女を犯せ」
その言葉を聞いた瞬間、祥太郎は耳を疑うと同時に。後頭部から背中へ何かが冷たく落ちる感覚。
周りの奴等が今まで浮かべていた薄ら笑いが、さらに気持ち悪く感じていくのが分かる。
「え?」
「え?」
いきなりの事に、祥太郎とボサ子は戸惑いの声。
しかし、供助は無反応。他人の下らない驕りや優越感などより、別の事へ意識を向けていた。
「お前等は彼氏彼女なんて一生作れそうにないからよ、こうして場を設けてやってんのよ」
「陰キャのお前らにさぁ、あたし等が卒業の機会を作ってやってあげようと思ってさぁ!」
男子生徒が恩着せがましく適当な事をほざき、それに女子生徒も乗っかって下品な笑いをあげる。
「や、やだ……」
「そんなこと、出来る訳ないよ……」
ボサ子は肩を縮こませながら震わせ、祥太郎も目を見開いて小さく首を振る。
突然の事に……いや、事前に言われていたとしても出来る訳がない。
「まぁ別に拒否しても良いけど……俺達のお膳立てを無駄にしたら、もっと酷い目に合うかもしれないけどなぁ?」
拒否させる気も、逃げる事を許すつもりも無いクセに。男子生徒は肩を竦ませながら、祥太郎達を睨み付ける。
取り囲んでいるいじめグループは男七人と女三人、計十人。
どう足掻いたって逃げれないし、抵抗しても返り討ちにされるのは目に見えてる。
「ほらほら、卒業ビデオは私達が撮っていてあげるからさぁ!」
女子生徒三人は揃ってスマホを持ち、ギャハハと品性の欠片も無い、汚い笑い声。
「ここなら誰も来ないし、倉庫の中なら声を出しても聞こえやしないよ!」
「だからさぁ、さっさと入っておっ始めろってんだよ!」
「きゃっ!?」
なかなか始めない事に苛ついた女子生徒が、まだ中身が残っている缶を強く投げ付ける。
体には直撃しなかったが、ボサ子の足元に落ちて激しく中身が飛び散らせた。
脅されて身の危険を感じ、女子生徒は怯えながら隣へ視線をやると。祥太郎もどうすればいいか戸惑う事しか出来ずにいる。
そして、その後ろの供助と目が合うと。
「ひっ……」
睨め付けてくる鋭く冷たい目。目が合っているのに自分では無い、別の何かを見透かすような。
脅してくる恐怖とは違う、異質な怖さ。言い様のない感覚にただ狼狽えてしまう。




