録画 -タノシイネェ- 弐
祥太郎が通う中学校の敷地はそれなりの広さがある。
その広さ故に無駄に開けた所や、使われていない場所が幾つか存在する。
校舎に隣接するように建てられた体育館。その裏にはあまり大きくないが部室棟もある。
そこよりもさらに奥。整備もされていない砂利道を少し進んだ先に見えるは、古びた小屋。
その小屋は離れた場所にあってあまり利用されておらず、運動会や文化祭などのイベント用の道具が置かれている。普段使わない物が置かれてる上に、学校の敷地内の端っこ。人が来る事はほとんど無い。
故に、隠し事をするには打って付けの場所。そう、言わずもがな。祥太郎が連れて来られたのはここ。
「あ……」
祥太郎が着くと、そこには既に複数人の男子生徒が居た。そして、倉庫の入口を背にして、その男子生徒達に囲まれている者が一人。
見覚えのある、目元まで伸びた焦げ茶色の髪。不愛想な態度。クラスメイトの供助だった。
「おー、先に来てたか」
祥太郎を連れて来た男が、この光景を見て楽しそうに仲間へ声を掛ける。
数にして六人。六人がたった一人を逃げれないように取り囲み、にやにやと不快な笑みを浮かべている。
完全に優位な立場から弱者を嘲笑う、数を力に有無を言わせぬ光景。視界に入って気分の良いものではない。
取り囲む男子生徒の殆どが黒い学生服のボタンを開け、だらしなく気崩す格好。おまけに数人は鉄バットを手にしている。
「ほら、お前も行くンんだよ」
「い、った……」
背中を強く押されて、祥太郎はよろけながら囲いの中に入れられる。
後ろから陰気で粘つく視線を受けながら、半円に囲む男子生徒達の中央に位置する倉庫の扉前まで移動する。
これから何をされるのか、嫌な予想しか考えられず恐怖に怯えて。祥太郎は震える手で眼鏡を抑え、隣に居るクラスメイトを見ると。
供助は祥太郎と目を合わせるどころか、何の反応もせず。怖がる様子も、怯える表情も、逃げ出すような素振りも。一切見せない。
今のこの状況に全く興味が無い。眼中に無い。ただただ、そんな佇まいだった。
「あと一人が来たら揃うからよ、少し待っててな。しょーたろー君、きょーすけ君」
祥太郎を連れて来た男子生徒が取り囲みに入り、これで七人。
周りを囲む男子生徒は別クラスの生徒も混ざっていて、初めて見る顔も何人か居た。
全員が顔をにやつかせ、これから起こる事を想像して。祥太郎と供助を、まるで折の中の動物でも見るような視線を向けて愉快そうにしている。
もはや娯楽の一種としてしか二人を見ていないのだろう。
「お待たせ―」
染められて主張が強い髪をした女子生徒が三人。少し浮かれて楽しそうな声色をさせて現れた。
そして、その三人によって挟まれながら、一人の女子生徒が連れられてきた。
背中を小さく丸めた猫背。髪型はボブに近いが、癖毛なのか寝癖なのかボサボサの髪。目にはクマがあって唇はガサガサ。一目で根暗そうなのが分かる。
「……面倒くせぇ」
「え?」
舌打ちと共に、今まで無言だった供助が呟く。ここにきて初めて驚いて口を開いた事に、祥太郎は目を向けるも。
相変わらず供助は目は合わせず、ただ一点。連れられてきた女子生徒だけに、長い前髪の隙間から視線を向けていた。
いや、正しくはその背後。一般女性から醸すとは思えない、あまりに異質な雰囲気。体に纏う黒々しいモヤを睨みつけていた。