第百十一話 録画 -タノシイネェ- 壱
翌日。そして、放課後。
暗い顔をして重い足を動かして廊下を歩く、祥太郎の姿があった。
重いのは足だけじゃない。気も重い。顔に陰りを作って小さく俯き、暗鬱した雰囲気。
これから起こるであろう事を考えれば、こうもなってしまう。
「あっ……」
下がり気味だった視線の先で、見覚えのある二つの顔を見付けて。
祥太郎は戸惑い混じりの小声を零した。
「おー来た来た。祥太郎、一緒に帰ろうぜ」
「今日は本屋に寄るんだろー?」
仲が良い二人の友人が、階段の近くで祥太郎を待っていた。
「二人共、待っててくれたんだ……」
親しい友人達の顔を見て、張り詰めていた気が僅かに緩む。
助けを求める言葉が喉まで来たところで、祥太郎はそれを飲み込んだ。
祥太郎がいじめを受けている事を、友人には知られていない。話してしまったら二人も巻き込んでしまうかもしれないからだ。
「ご、ごめん。今日はちょっと用事があって……先に帰ってて」
「用事ってなんだよ? 朝はそんな事言ってなかったじゃん」
「じゃあ待ってるから、早く済ませて来いよ」
「い、いいから先に帰ってて」
「でもよぉ……」
目に見えて様子がおかしい祥太郎に、友人達は不安を感じ始める。
何か事情があるのか聞こうとした時、祥太郎の背後から一つの影が近付く。
「しょーたろー君、何してんの? 早く行こうぜー?」
現れたのは祥太郎と同じクラスの男子生徒。そして、いじめの主犯格でもある。
これ見よがしに祥太郎の肩に腕を回し、あたかも仲が良いように見せかけるも。
実際は逃げないよう、その腕には密かに強く力を入れられていた。
「う、うん。そういう事だから、じゃあね」
「あっ、おい! 祥太……」
だが、友人が話している最中、わざと最後まで言い切る前に視線を外して。
祥太郎は友人達を置いて、男子生徒と一緒に昇降口に向かうのであった。
心苦しく、心が痛む。自分が取った行動に、激しい後悔と罪悪感が胸を締め付けてくる。
しかし、ここで安易に話してしまえば、大切な友人二人もいじめに巻き込んでしまうかもしれない。それだけは駄目だと。
祥太郎は下唇を噛み、良心の阿責に耐えるのだった。
「他の奴等がそろそろ古々乃木……だっけ? アイツを連れて来てる頃だからよ。さっさと行くぞ」
「う、うん」
これからどうなるのか、なにをされるのか。恐怖で背負ったリュックのベルトを強く握り締める。
そして、口にされた聞き覚えのある苗字。ろくでもない事が起きるのは、想像したくなくても予想が出来てしまう。
一歩歩く事に、着々と。迎えたくも無い未来が迫ってきていた。




