舌打 -ショケン- 弐
二年生になって新しいクラスでの学校生活。
早くも話が合う友達が出来て、一緒に弁当を食べたり連れションに行ったり……という事は全く無く。
引っ込み思案の性格をした祥太郎。自分から話し掛ける事なんかできる訳もなく、友達は作れずにいつも一人だった。
しかし、多少の寂しさはあれど、元々内向的な祥太郎。
趣味の一つにライトノベルを読む事が好きで、授業の合間の休み時間は本を読んで過ごしていた。
昼休みになれば別クラスの友人達と会って話せるし、新しいクラスもそこまで苦じゃなかった。
が、それは最初の一か月ほどだけであった。
桜の花は散り、四月も終わって、ゴールデンウィーク明け。その頃から祥太郎の学校生活が変わってしまう。
いつもクラスで一人で居る祥太郎が、徐々にいじめの対象になっていったのだ。
初めは聞こえるように陰口。ぼっち、オタク、キモイ。そんなありきたりなもの。
次第に言葉だけではなく、登校すると机や椅子が端に移動されてる。トイレから戻ると自分のカバンが隠されてる等。
間接的なものへと変わって。そして、それが直接的なものになるのに時間は掛からなかった。
すれ違いざまに打つかってくる。丸めた教科書や定規で叩かれる。じゃれつく素振りで殴る蹴る。足を引っかけられて転ばされる。
主犯格は一年の時に同じクラスだった男子生徒。運動部で性格も明るく、いつも友人数人とグループを作ってる。
痛がり、困り、戸惑う祥太郎を見て。その仲間達はケラケラと笑って面白がる。
クラスの他の生徒達も最初はからかっているだけだと思っていたが、内容は徐々にエスカレートしていき。いじめだと気付いても、止めようとする生徒は誰も居なかった。
面倒毎に巻き込まれたくない、自分がいじめの対象になりたくない、そこまで親しくない。
初めは祥太郎に同情を向けていたが、いじめの光景が日常化するにつれ、次第にそれが慣れに変わっていく。そして、その慣れが行きつく先は憫笑。
クラスの大半の生徒は、またやってるよと視線を向けて小さな笑い声を漏らすだけ。
そして、今日もまた。日常化したいじめが行われていた。
「な-に読んでんの? しょーたろー君」
「え? あっ……」
状業の合間の休み時間。クラスで話せる友人の居ない祥太郎は、自分の席でライトノベルを読んで過ごしていた。
そこにいじめグループである一人の男子生徒が近づいてきて、開かれたライトノベルのページを覗き込む。
教室に居る生徒から注目されるよう、わざと大きい声を出してだ。
「なにこれ、漫画みてーな……小説? よっくわっかんねぇ」
祥太郎の手から不意に奪い取り、本の表紙を演技っぽく眺める男子生徒。
しかも教室の皆に見えるように持った手を高く上げ、にやにやと不快な笑みを浮かべている。
男子生徒は学生服を綺麗に着こなし、髪も染めておらす身だしなみも整っている。先生からの評判は良い。
が、裏ではこんな事をやっている。世に言う真面目系クズ、というヤツだ。
「ちょ、取らないでよ……!」
「いーじゃん、少しくらい貸せよ」
「ねぇ返してよ!」
「あぁ?」
祥太郎は椅子から立ち上がって、奪われた本を返して欲しいとお願いする。
そう、ただお願いしただけ。ごく当たり前で、至って普通の、当然の反応。
しかし、この行動が男子生徒の目には反抗的な態度に映ったようで。




