第百十話 舌打 -ショケン- 壱
時は遡って三年前。季節は春。加えて、本日は始業式。
小学校を卒業し、新しい環境による勉学や部活へと心を躍らせる新入生たち。
そして、初めて出来る先輩後輩という年功序列への不安。
とはまた別の不安を胸に、この新学期に投稿する者達が居た。
今年から二年生になる生徒が三人。校門前に大きく貼り出された、新しいクラスの割り振り表。
それを指差しながら自身の名前を探す、一人の男子生徒がいた。
黒い短髪で眼鏡を掛けて幼さが残る、この見覚えのある顔立ちは。当時中学二年生になったばかりの祥太郎である。
相変わらず背丈は150センチ程で、一緒に居る二人の友人の中で一番小さい。
「あった! 俺、一組だ!」
「あ、俺もだ」
友人二人は早くも自分の名前を見付ける。
クラスは全部で三組。それを順に一組から探していけば、見付けるのは早い。
が、祥太郎はまだ見付からない、という事は……。
「……僕、三組だ」
祥太郎だけが、仲の良い友達の輪から外れてしまっていた。
「え、マジか」
「祥太郎だけ別クラスかよ」
残念そうにする友人二人。その二人より残念なのは、当人である。
信じたくなくてクラス表を呆然と眺めるも、それで結果が変わる訳がない。
しかし、この現実を受け止めねばならない。これから一年間は仲の良い友人と違うクラスで過ごす事に。
「……しょうがないよ。でも、クラスは違くても二人とは今まで通り会えるし、遊べるしさ」
「まぁそうだけどさぁ」
「祥太郎だけ別のクラスなのは寂しいよなー」
祥太郎は落胆したい気持ちを抑え、二人に心配させないよう先に歩き出し、昇降口へと入っていく。
去年は毎日のように一緒に居た友人が、靴箱が別の場所になっただけでこの寂しさ。心に来るものがある。
靴を履き終え、一緒に二年生のクラスがある棟まで移動する。
クラスは違えど、二年生の教室がある棟と階は同じ。休み時間に会おうと思えば幾らでも会える。そう思えば寂しさも少しは紛れた。
「じゃあ、また昼休みにな」
「飯は一緒に食べようぜ」
「うん」
昼食を一緒に食べる約束をして、友人と別れる祥太郎。
二年生のクラスは全部で四つあり、友人のクラスは階段から一番手前。祥太郎のは一番奥。
大した距離じゃないのに、一人で歩く廊下が妙に寂しさを帯びていた。
開けっ放しにされた教室のドア。そのドアに貼られてある座席表で自分の席を確認して、祥太郎は少し気が重いまま二年生の新しい教室の中に入ると。
既に半数以上の生徒が教室内に居り、新たな環境に気持ちが高まる生徒達が賑やかさを作っていた。
一年生と続けて同じクラスになった友達だったり、同じ部活の仲間だったり。いくつかのグループが早くも出来ていた。
しかし、祥太郎の友人は一人も居ない。一年生の時に同じクラスで顔を知った生徒は何人か居たが、ほとんど話した事が無い。
学校が決めたクラス割り。新学期早々、一人きりで不安でいっぱいの祥太郎。
それでもなんとか楽しく過ごせるよう、唾と一緒に不安を飲み込んで。自分の机へと向かうのだった。