口滑 -スベラセ- 伍
「十分にレベル上げても運ゲーなボスだからなぁ。即死パターンを引いたら運が悪かったと思うしかないっすよ」
「くそぅ……まぁ腹は立つが丁度良い。太一達も来たし辞め時かの」
猫又は一旦諦めてて、ゲームの電源を切る。ちゃんとリセットボタンを押しながら。
その様子を見ながら和歌は居間にあるテーブルまで移動して、少し大きめのコンビニ袋をその上に置く。
「そんな気落ちしないでください、お菓子やジュース買ってきましたから」
「おおっ、気が利くではないか! 太一と祥太郎の二人だと聞いておったが和歌も来たか」
「はい。予定も無くて暇だったので」
「ちょいと待っておれ。今コップを持ってくるでの」
猫又は立ち上がり、人数分のコップを取りに隣室の台所へ。
買ってきた飲み物は全て大サイズのペットボトル。さすがにこれを回し飲みとはいかないだろう。
その間に太一と和歌がコンビニ袋から中身を出して、テーブルの上へ広げていく。スナック菓子にチョコ類と様々。
「とりあえず適当に菓子の袋開けようぜ」
「最近のお菓子って小分けされてるタイプが多くて食べやすいのよね」
「代わりに量が減ったり、サイズが小さくなってるのもあるけどなー」
「コンクリーマァムとか、ソットカットとかね。最初は私が高校生になって体が大きくなったせいで、相対的に小さくなったのかと思ったもん」
太一と和歌はテーブルの前に座って、いくつかのお菓子を空けながら小話。
お菓子のサイズが小さくなってる事に気付くと、少し悲しくなる。美味しいから買っちゃうけど。
「どした、祥太郎?」
会話に入ってこない祥太郎に気付き、和歌が居間の入口の方を見ると。
祥太郎は何か考え込むように腕を組んで棒立ちしていた。
「腹でも痛いのか?」
「そういう訳じゃないんだけど……」
「もしかして、さっきの見覚えのあるって言ってた女の子か?」
「うん」
「祥太郎がそこまで人を気にするってのは珍しいな。祥太郎の初恋の相手だった、とか? または元カノ」
「そ、そんなんじゃないよ! っていうか、僕に元カノなんて……あっ」
何かを思い出したのか、祥太郎が言葉の途中でピタリと動きが止まった。
「思い出した。あの人、中学校の時の……」
「えっ? マジで祥太郎の元カノ?」
「だから違うって! 僕じゃなくて供助君の――あっ」
しまった、と。祥太郎は口を手で押さえるも、時すでに遅し。
太一と和歌が言葉の意味を理解するのに固まる。が、それも一瞬。
「おい祥太郎、どういう事だそりゃ!? 供助の元カノってマジか!?」
タイミング良く……いや、悪くとも言えるか。
「ほほう?」
猫又も丁度コップを持って戻ってきた所で、祥太郎の発言を聞き逃していなかった。
祥太郎と猫又が目が合った瞬間、ニチャア……と。妖怪みたいな不気味な笑み。いや、元から妖怪なんですけども。
「ひ、人の昔話を僕が勝手に話すのはちょっと……供助君も嫌だと思うし……」
しかし、こんな面白そうな話を見逃す奴等ではない。
「供助が居ない今だからこそ、話を聞きやすいってもんだ。なぁ祥太郎?」
「まぁまぁ、菓子と茶はたんまりある。ゆっくりと話そうではないか」
太一は祥太郎の肩に腕を回して逃げられないようにし、猫又はコップをテーブルに置いて安座する。
祥太郎は察す。あ、これは逃げれないと。
そして何より、誰より。一番の衝撃を受けて、最も気になってしょうがない人物が居た。
「とりあえず座ろっか、森久保君」
いつもの笑顔で、にこやかに。和歌は祥太郎へ声を掛けて。
「私もその話、聞きたいな。詳しく」
声、表情、態度。全てが普段の和歌と変わらない。が、その奥底から何か、とてつもない威圧と重圧を感じて。
祥太郎は有無も言わさず、飲み物を注がれたコップの前に座らされるのであった。




