口滑 -スベラセ- 肆
◇ ◇ ◇
コンビニを発ってから十数分後、三人は供助宅に到着した。
多少古く見える一戸建てだが、中は所々をリフォームしてあって見た目ほどボロくはない。
水回りを重要的に改修してあって、風呂場やキッチンは綺麗そのもの。前者は住居者が使わないから特に綺麗なまま。
しかし、リフォームしてあっても玄関は昔馴染みの摺りガラスの引き戸。そのすぐ横に付けられてある小さなボタン。
先頭を歩いていた太一がその呼び鈴を押すも、家の中から音が鳴った様子はない。
「なんだ、まだ壊れたままかよ」
太一が数回呼び鈴のボタンを押すも、やはり音は鳴らない。
前に太一が連打して壊れされたまま放置されて、早ひと月強。未だに直さないの理由は簡単、修理に金が掛かるから。
「こんちゃー。猫又さん、居ますー?」
意味が無い呼び鈴は諦めて、太一は玄関の引き戸を開けて一声。
「うーい」
すると、玄関から入ってすぐ左手側の部屋から聞こえてきたのは、気怠げで気の抜けた女性の声。
開けっ放しにされた部屋の入口から、二本の黒い尻尾がゆらゆらと顔を出した。
「勝手に上がって構わんぞー」
この家の住居人の一人である、猫又の声と連動して部屋へ招くように揺れる尻尾。
「お邪魔しゃーす」
住居人の許しが出て、靴を脱いで家に上がる太一。それに続いて祥太郎と和歌も上がっていく。
尻尾が出て来てた居間に入ると、猫又は寝っ転がってテレビの画面へと目を向けたまま。
「よう来たの。ちょっと待っとれ。今このボスを倒すところでの」
和歌達には一瞥もくれず、脇の下に折り畳んだ座布団を挟んだ格好。
旧式のハードでレトロゲームをプレイしており、カチャカチャとコントローラーのボタンを押す音がする。
猫又がプレイしているのは、十年以上も前に発売されたレトロゲームのRPG。
レトロとはいえ有名所の作品で、今でも続編が発売されている程。和歌達も猫又がやっているゲームは知っていた。
「むぎー! 氷の息から稲妻のコンボとか無理ゲーではないか!」
猫又は声を荒げてコントローラーを投げ捨て、座布団に顔を埋める。
ゲーム画面にはパーティ全滅の文字が書かれており、セーブした所からのやり直しが確定した。
「あー、ここは中盤の鬼門ですからねぇ」
太一がテレビ画面を見ると、そこに映っていたのはカエルのような魔王。
猫又はこれで三回目の挑戦なのだが、全て同じパターンで全滅中である。




