口滑 -スベラセ- 参
「太一君、鈴木さん、お待たせ。会計終わったよ」
大きなコンビニ袋を二つ持った祥太郎が、会計を済ませて歩いてきた。
「サンキュー。袋、片方持つぞ」
「それじゃこっちお願い」
祥太郎は菓子が大量に入った袋を太一に渡し、空いた手で少しズレていた眼鏡を整える。
最近、眼鏡が少しズレやすくなってきてるのだが、かといって新しいのを買うまでも無い。そんな中途半端な面倒さ。
「委員長も来るか? 供助ン家」
「うーん、私はあまりゲームしないし……行っても猫又さんの相手になれないしなぁ」
「供助もいないもんなぁ?」
「べ、別にそういう訳じゃ……!」
「冗談だって。ちなみにゲームはスマッシュシスターズだってけど」
「あ、スマシスなら小さい頃にやってたから出来るかも」
「ぶっちゃけ猫又さん、やり始めでそんな強くないから委員長ぐらいが丁度良い相手なりそうなんだよな」
「そうなの? じゃあちょっとお邪魔しようかな」
三人はコンビニから出て、供助の家を目指す。
空調の効いた室内いから出ると、外は秋の空気で少しの肌寒い。
ここからだと歩いて十分くらい。遠くもない、近くもない程度の距離。
「なぁ祥太郎、委員長も来るって……祥太郎?」
「……」
太一が祥太郎に声を掛けると、祥太郎は上の空で聞こえていない様子。
それどころか足を止めて、コンビニの方を見たまま動かない。
「おい、祥太郎って」
「……えっ? あ、ごめん、なに?」
太一が移動して祥太郎の視界に入って、そこでようやく祥太郎はハッとして返事した。
「なんだ? 誰か知り合いでもいたのか?」
「知り合いって言うか、うん……すれ違いでコンビニに入って行った女の人、どっかで見た事あるような気がして……」
「ならコンビニに戻ってみるか? 待ってるぞ」
「ううん、思い出せないって事はそんな仲良くなかったと思うし。早く供助君の家に行こうよ」
「そうか?」
全員が歩き出す。が、内心では祥太郎はどこか落ち着かない。
喉に引っ掛かった小骨、または奥歯に引っ掛かったニラ。どこか気になってしょうがない、けど思い出せない。そんなスッキリしない心境。
「そういえば供助君から連絡きた?」
「んーや、なんも。すぐ終わるって言っても、さすがにまだ掛かるんじゃないか?」
「そっか。じゃあ僕達が先に供助君の家に着くね」
「ま、そういう予定だったしな。猫又さんには供助から言ってあるみたいだし」
心に引っ掛かる違和感を振り払うように話題を変え、太一と会話する祥太郎。
しかしそれでも、後ろ髪を引かれながら供助の家へと向かうのであった。