口滑 -スベラセ- 弐
相変わらず霊障や怪異の事件が多く、供助と猫又は今週も毎日が依頼だった。
横田さんも気を使って……というか学生の供助の環境を鑑みて、可能な限り近場の依頼を優先的に送っていた。
なので基本、深夜零時頃には依頼を達成して家に帰宅できるように、依頼を組んでくれている。
まぁその結果、じゃあ遠方の依頼はどうなるかっていうと、車などの移動手段を持つ他の払い屋へと割り振られる。
そう、つまり。供助の後輩で自動車免許を持つ南が、結構振り回されているというのは……それはまた、別のお話。
「でも、猫又さんが普通に出歩いてた事がバレてから、供助君も近所の目を警戒する必要無くなって少しは気が楽になったんじゃないかな」
「勝手に出歩いてた事を知った時は、供助は本気で怒ってたって祥太郎から聞いたけどな」
「あー、うん。怒ってたわね。猫又さんにアイアンクロー決めてたし」
旅行の帰り道で和歌からのタレコミで発覚した、猫又の出歩き。
一人暮らしをしていた供助の家に、見た目は若く美人な猫又が急に同棲し始めたのだ。
井戸端会議やう技話が大好きな主婦が多いこの近所。変な噂が立たないよう、猫又の存在を秘密にして人目に見られないよう、外出を控えさせていた。
それに、猫又は人食いに襲われて重傷を負い、この街に逃げてきた経緯がある。それもあって一人での下手な外出は避ける目的もあったのだが……全て徒労で終わりを迎えた。
しかしまぁ、猫又の愛想が良いお陰で近所のおばさん方とは良好な関係を築いていたらしく、尾ひれ葉ひれ付けて井戸端会議のネタにされる事はなかった。
近所付き合いが苦手だった故に供助が、それを最近まで知らなかったというのは滑稽だが。
しかし、だ。猫又が供助の家に居候するようになったのは、人喰いに襲われて重傷を負い、この街に逃げてきた経緯があったからだ。
人喰を誘き出す為に囮になるという条件を交わし、同時に保護の意味も兼ねていたというのに……それで好き勝手に出歩かれれば、保護役を任された供助の頭も痛くなろう。
一応横田にも事情を話して相談した結果、この五日折市に配置しておいた部下から今までに人喰いの目撃情報は皆無。
恐らく既に近くには居なく、襲撃理由も気まぐれだったのだろうと、猫又が出歩いても恐らく大丈夫だろうと判断された。
『ま、猫又ちゃんへの危険がほぼ消えたのは素直に喜ばしいけど……人喰いの情報を掴み損ねたのは歯痒いね』
供助との電話で零された、横田の言葉。半端に期待していた部分もあって尚更。
安心した半面、人喰いの情報を掴めない事への口惜しさは多少あった。
まぁ、そんな払い屋の裏話を太一達が知る訳もなく。太一と和歌は、供助と猫又が起こす日常の笑い話としてネタにするのであった。