第百九話 口滑 -スベラセ- 壱
程良い日差しが温かく、青々しさ広がる秋空。
南達と行った旅行から二週間が経ち、今は十月中旬。
そろそろ冬の気配がちらりと見え始め、お日様の温かさを感じつつも、時折吹く秋の風に肌寒さを覚える。
そんな秋と冬が交互に見え隠れする通学路。帰り道の途中にあるコンビニに、太一、祥太郎、和歌が買い物の為に立ち寄っていた。
「じゃあ僕がまとめて一緒に買っておくから」
「おう、よろしく。金は後で払うから」
一通りの物色は終了し、お菓子やジュースが入ったカゴ。
それをレジへと持っていく祥太郎に、太一は言葉を返して暇潰しに店内を適当に回る。
今日は帰りに供助の家に寄って遊ぶ事になっており、その時に食べる食料を確保すべくコンビニに買い出しに来ていたのだ。
「なに読んでんの? 委員長」
「あ、田辺君。これ? 料理雑誌。表紙がちょっと気になって」
「委員長、料理上手いもんな。やっぱこういう雑誌とか本って読むんだ」
「うーん、実はあんまり読まなかったりして……最近はネットの動画とかの方が分かりやすいの多いから」
「あー、確かに。ミ―チューブとかで結構あるよな、男でも作れる簡単レシピ動画とか」
「そうそう、レンジだけで作れるお手軽な物とかも多いから、かなり役に立つのよね」
和歌は表紙をもう一度だけ見て、雑誌を棚に戻す。
役に立ちそうな内容だったら買おうかと思っていたが、流し見した感じでは特に買う必要は無さそうだった。
「森久保君は?」
「会計中」
言われて和歌がレジの方を見ると、祥太郎の背中が見えた。
まだ先客のレジ待ち中で、終わるのはもう少し掛かりそうだ。
「今日は何をしに供助君の家に行くの?」
「猫又さんがゲームの対戦をしたいんだと。供助が面倒臭そうにしながら言ってきたから、小煩く駄々こねられたんじゃないか?」
「供助君が学校に行ってる日中は、ずっと一人だから暇なんだろうね、猫又さん。たまには外に出て散歩してるみたいだけど」
「あと昨日発売された漫画の新刊、俺が買ったから早く貸して欲しいってのも言われたな」
「でも、供助君の家で遊ぶのに、その供助君は居ないけど……」
そう、今この場に供助は居ない。
和歌は帰宅のタイミングがたまたま重なり、供助の家に行くという太一と祥太郎と一緒に帰っていただけ。
学校を出た時から供助の姿は無く、同じクラスの和歌も気付かない内に先に帰っていた。
「なんでも、バイト関係で頼まれた事があるんだってさ。学校帰りに済ますから、猫又さんもいるし先に家に行っててくれって」
「でもその、供助君のバイトっていつもは夜にやってるんだよね?」
「そんな手の掛かる事じゃないから、すぐ終わるって言ってたし……依頼とは別の仕事なんじゃないか?」
「夜は夜で依頼があって、休める時間の昼にも急に仕事が入るなんて……大変そう」
「なんだかんだで、ここ最近も依頼が多いらしいしな。体壊さなきゃいいけど」