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第百八話 残痕 -カクニン- 壱




    ◇   ◇   ◇




 辺りには墨を流したかのような黒い闇が広がり、近くにある雑木林が余計に不気味さを醸し出している。

 空に浮かぶ月から降り注ぐ僅かな明かりが、辛うじて物質の輪郭だけを象っていた。


「はい……ええ、そうです。たった今、到着しまして……」


 街灯など一つもなく、かなりの広さがあって闇が占める場所に一人、誰かと会話している。

 額まで伸びた黒髪に、サングラスを掛けた男。歳は三十前半くらい。

 肌寒さを感じ始める秋夜とはいえ、まだ季節的に早いと思わせる、茶色いロングコートを羽織ったその姿。


「まぁ今も歩いて視て周ってるんですが……」


 右手にはスマートフォンを持ち、耳に当てながらてくてくと歩く。

 舗装されていない地面のせいで綺麗な革靴に土が付き、心底嫌そうな表情を作る男。

 少し高い丘の上にあり、周りにはダンプカーやパワーショベルなどの大型機械が複数台。

 そう、男が居るこの場所は、供助達がケガレガミと対峙した工事現場だった。


「あちこちに妖気の残滓がありますね。と言うか、まだこんだけの残ってるって、結構な相手だったんじゃないんですか、これ」


 掛けていたサングラスを空いていた左手で上げ、数メートルも続く地面の大きな溝を凝視する。

 まるで重機を使って乱雑に掘り起こされたかのような地面の傷跡に、薄っすらと感じ取れる黒々しく禍々しい妖気の残り。

 そして、男は地面から視線を上げて、辺りをぐるっと見回すと。

 地面は他にも所々に穴や窪みがいくつもあり、さらに崖の様に立っている土壁や、置かれている重機にまで。

 至る所に不自然で不規則な傷跡があった。


「いやま、確かに。それを調べる為に俺が来させられたんですけども……」


 男はスマホで会話をしつつ、足を進めていく。

 その先には赤いカラーコーンが並べられ、さらにその奥には小さな洞窟。


「ここは特に臭気が凄いな……本当にここに居た奴を、あいつ等が倒したんですか?」


 男はロングコートのポケットからペンライトを取り出し、中を照らす。

 土の臭いに混ざって、異質なモノの残り香も微かに漂う。じっとりと湿気があるのも、余計に不快さを際立たせる。

 話す声の反響からして、そこまで奥深くは無いのが分かる。ペンライトの光も、一番奥らしき壁をほんの微かに捉えていた。


「だってこれ、軽く霊視しただけでも結構な妖ですよ? 横田さん」


 男が口にした、電話相手の名前。

 それは聞き覚えのある、供助達の上司である者の名であった。


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