車内 -キョカ- 陸
「猫又さんが食べたくて買った物なんでしょ? もらえないよ」
「おばさんに地酒を買ってただろ? それ合わせて食ってくれ。猫又が迷惑掛けてたのに、旅行に行って来て何も渡さなかったら失礼だろ」
「でも、猫又さんに悪い……」
「猫又"に"悪いんじゃなくて、猫又"が"悪かったんだ。本当に気にすんな。それに俺も、おばさんにはたまに料理をお裾分けしてもらってるしな」
「……うん、わかった。ありがたく貰うね。お母さんも喜ぶと思う」
「おう。悪ィけど、猫又の事は上手く話を合わせといてくれな」
「大丈夫。下手な事は言わないで、適当に合わせておくから」
和歌が珍味セットが入った君袋を受け取るのを、恨めしそうな目で見る猫又。
自業自得なのに諦めが悪い。そして、供助に軽く頭を叩かれるまでがお約束である。
「また明日、学校でね」
「行きたくねぇなぁ」
「気持ちは解るけどね。ダメだよ、遅刻したら。お休み、供助君。猫又さん」
そう言って、沢山のお土産を持って和歌も帰宅する。
供助の家のすぐ隣。一分にも満たない間だが、和歌を見送る供助と猫又。
和歌の『ただいまー』という微かな声と、玄関のドアが閉まる音。
これであとは自分達が帰るだけ。
「はぁぁぁぁ、楽しみにしていた珍味セットが……」
「いい加減に諦めろ。元はと言えばお前が悪いんだからな。俺がずっと隠し続けてたと思ってたのに……」
「ずっとひた隠しにしてボロが出るよりも、さっさとおっぴろげにして先手を打った方が怪しまれる事が少ないからの。特に頭の悪い供助が上手く立ち回れるとは……」
「確かに。ひた隠しにしてボロが出た時は大変な目に合うよなぁ?」
「ヒェェェ! 御堪忍だの!」
反省の色があまり見られない猫又に、アイアンクローをするジェスチャーを見せる供助。
ついさっき受けた痛みを思い起こされて、猫又は手で頭を押さえて後ずさりする。
すると不意に、供助は何かが気になるのか、明後日の方向へと視線を向け始めた。
「む? どした?」
「あぁ、いや……」
「例の鈴の音、かの?」
「まぁな。今のは小さくちょっとだけ聞こえただけだ。気にすんな」
片手を耳元へとやり、小さい音を拾うように。
一瞬だが確かに聞こえてきた鈴の音は、すでにもう聞こえなくなっていた。
そして、猫又もまた、鈴の音に関して伝えなければならない事があるのを忘れてはいなかった。
「供助、その事で話がある」
「その事って、鈴の音の事か?」
視線を猫又へと戻すと、猫又は荷物を持って家の玄関へと歩いていく。
「まずは家に入ろうかの。十月過ぎた夜は風が冷たい」
微かに吹く秋の夜風が、猫又の黒髪を靡かせる。
十月上旬の仄かに冷たい空気。肌に触れた風に供助も肌寒さを感じ、猫又の後を追う。
旅行から帰宅して我が家へと入っていく二人を、欠けたお月様が静かに見下ろすのだった




