車内 -キョカ- 伍
「猫又サンも世話になったな。いや、あたしは世話をした方か?」
「世話もしたし世話にもなったの。しかし、今回は酒やらなんやら馳走になった。またいつでも遊びに来るとよい」
「良いのか? そう言われたら古々乃木先輩目当てで、しょっちゅう来ちまうぞ?」
「酒さえ持ってくればOKだの」
「ンな事言ったら、またアイアンクローされンぞ。ねぇ古々乃木先輩?」
自分都合で好き勝手言う猫又に、南は溜め息。
ほぼほぼ食っちゃ寝の居候よりも、家主である供助の意見を聞くのが礼節である。
「ま、今回は南には色々助けられたしな。たまになら構わねぇよ」
するとまさかの家主からお許しが。
予想外の返しに、南は徐々に目を見開いて行ってテンションを上げる。
「マジッスか!? んじゃ早速、来週末あたりに一泊よろしく……」
「たまにっつったろ」
窓から少し身を乗り出して喜ぶ南を見て、最後まで騒がしい一同に苦笑いする和歌。
この様子じゃ南との再会もそう遠くない。おつまみのレパートリーも、早めに増やしておいた方が良さそうだ。
「んじゃ祥太郎の事、頼むな」
「うッス。あたしの目的地までの通り道なんで、そんな手間じゃないッスけどね」
最後に送られるのは家が一番遠い祥太郎。
祥太郎は供助達が住むここ、五日折市から数駅離れた祖母の家に住んでいる。
実家はここからもっと遠く、高校に通う為に実家よりも近い祖母宅にお世話になっているのだ。
「そんじゃ、失礼するッス。猫又サンと和歌もまたな」
「じゃあね、供助君、鈴木さん。猫又さんも」
南と祥太郎は最後の挨拶をして、車の窓を閉めて。
停車中に光っていたハザードの点灯は消え、南が運転する軽ワゴンが発進する。
遠くなっていく車のバックランプを見送り、エンジン音も遠ざかって静寂だけが残った。
「行っちゃった。この三連休の間、ずっと賑やかだったから……静かになると余計に寂しく感じるね」
「そうかぁ? 俺は賑やか過ぎて疲れたよ。馴染みの布団と枕でゆっくり寝てぇ」
「ふふっ、それはあるかも。じゃ、私も帰るね。急な話だったけど、旅行に誘ってくれてありがと」
「俺が誘ったってか、横田さんの提案だったけどな。ま、楽しめたんなら良かった。あぁ、あとコレ」
「……? なに、これ」
「おばさんに渡してくれ。俺等からの土産って事で」
供助が持っていた荷物の中から、一つの紙袋を和歌に渡す。
それを見て、とある事に気付く猫又。
「ちょっと待つんだの! それは私が買ってもらった珍味セットではないか!?」
「そうだな」
「そうだな。ではなかろうて!? なんであげてしまうんんだの!? なぜなになぜして!?」
「お前、俺に隠れて色々とおばさんに世話ぁなってんだろ」
「それは……そうで、あるが……」
「もっと早く知ってたらちゃんと買ってたんだけどな。お前が隠してたせいでそれすらも出来なかったんだ。文句あんのか?」
「ぐぐぐぐぐぅ……ぐうの音も出ん」
「出てんじゃねぇか。五個くらい」
供助の反論に対して、何も言い返せない猫又。
そりゃそうだ。全面的に弁明の余地もなく非の打ちどころしかない程に猫又が悪い。