車内 -キョカ- 肆
「猫又、人型に戻ってお前も荷物持て」
「りょーかいだの」
後部座席でボフン。猫から人の姿になってから、車から降りる猫又。
もう夜中の住宅街とは言え、人の目があるかもしれない。一応用心しての車内での変身。
供助と和歌はトランクを開けて、積んでいた各々の荷物を下ろしていく。
「手伝うっスか?」
「いや、大丈夫だ」
南が運転席から気に掛けてくれるが、わざわざ車から出させるのも悪い。
それに三人も居れば一人でも十分。ぱぱっと済ませて、トランクのドアを閉めた。
「送ってくれてあんがとな。助かった」
「いいッスよ、これくらい。古々乃木先輩と旅行に行けて楽しかったッス!」
「色々ありすぎた旅行だったけどな」
「ま、あれはあれで、あたし達らしい旅行だったって事で」
疲れた顔で肩を竦める供助に、南は運転席の開けた窓から八重歯を見せて笑って返す。
まさか旅行先であんな大事に巻き込まれるとは誰が思っていたか。
楽しくもあったが大変でもあった。色んな意味を含めて、記憶には残るだろう。
「せっかくの旅行だってのに、ゴタゴタがあって悪かったな。祥太郎」
「そんな事ないよ。すごく楽しい旅行だったし、きっと一生忘れられないよ」
「そりゃ違ぇねぇ」
「遊び疲れで寝坊して、明日学校に遅れないようにね」
「起きれる自信無ぇなぁ」
助手席に座る祥太郎へと、半目で怠そうに会話する供助。
明日からまた学校だと考えると億劫で仕方ない。
「鈴木さんも気を付けて帰ってね。って、供助君の家の隣だからすぐそこだけど」
「大森君とは学校では委員会とかで接点があったけど、こうして遊ぶのは初めてだったね。色々あったけど、楽しかったよ」
「供助君も言ったけど、色々ありすぎて大変だったけどね……また機会があったらよろしくね」
「こっちこそ。そっちも気を付けて帰ってね」
実は和歌と祥太郎、二人はプライベートで遊ぶのは初めて。
学校ではクラスは違えど、お互いクラス委員長で、なんらかの集まりで顔を合わせて話す事は多かった。
学校での接点はあったものの、それ以上でもそれ以下でもなかった二人。共通の友人を通して交友が広がるのは、珍しい事でもない。
「そんじゃな、和歌。作ってくれた飯、めっちゃ美味かったわ。また食わせてくれな」
「はい、喜んで。今度は南さんが好きそうなおつまみを調べて、作れるようになっておきますから」
「お、そりゃ嬉しいねぇ。今度こっちに来る時の楽しみが増えるってモンだ」
「ふふっ。お仕事が大変だと思いますけど、怪我とかには気を付けてくださいね」
「おうよ。ま、和歌も頑張んな。色々とよ」
別れの挨拶を、笑顔で交わしていく。
最初に出会った時に、南が和歌にガンくれて脅していたのが懐かしい。
まぁ南は目付きと見た目は悪いが、根は悪くない。一度打ち解けてしまえば、気さくに話せる姉御肌。
最初は怖くて怯えていた和歌も、今じゃ普通に笑って話せて、料理を振舞ってあげる程に仲良くなっていた。
仲良くなってまだ日は浅いが、やはり別れには少し寂しいものがある。




