鎌鼬 ‐カマイタチ‐ 参
「どれ、こちらから仕掛けるかの」
妖力が篭められ伸びた爪。長さは三センチ程。
大きく掌を開き、疾走する。
「キキキ――――!」
速攻。猫の如く俊敏な動き。
数メートル離れていた鎌鼬の所へと、一足飛びで距離を詰める。
突然の行動に、構鼬は驚き戸惑い、動きが遅れ。
猫又による右手の爪撃が、右肩を削いだ。
「ギ……ギィィィィィィ!
生々しい音。吹き出る血潮。落ちる鎌腕。
鎌鼬の悲鳴、絶叫、悶絶。
耳を劈く痛々しい鳴き声。いや、泣き声。
「ほう、辛うじて避けおった」
頭部へ一撃即死を狙った猫又であったが、咄嗟に後ろへと身を引かれて狙いがずれた。
結果、鎌鼬の頭部は残り、代わりに吹っ飛ぶは右腕。
即死とはいかないが、このまま放っておけば衰弱死に至るだろう。
「ギギ、キ……キッ!」
「ぬ?」
痛みに悶絶していると思っていると、鎌鼬は落ちた腕を残したまま逃走した。
さらに奥へ続く通路。闇に紛れ反撃に移るのか、本気で逃げ出したのか。
それとも、まだ確認していない三匹目の元へ行ったのか。
「依頼の目的が討伐以上、このまま逃がす訳にはいかぬからの」
やれやれ、と。小さく息を一つ吐いて、猫又は頭を掻く。
「しかし、他の仲間も連れてくれれば芋づる式に見つけれるのう」
闇の奥へ消えていった一匹の鎌鼬を追い、猫又も暗闇の中へと追っていった。
広いホール。そこに残るは供助ともう一匹の鎌鼬だけになる。
「仲間は逃げちまったが……てめぇはどうする? 攻めるか逃げるか。どちらにしろ祓らわせてもらうけどな」
小指から人差し指を、順にゆっくり。最後に親指を曲げ、握り拳を作る。
「来いよ。面子を守りてぇんだろ?」
右腕を前に突き出し、構える。
供助の戦闘方法は打撃。殴りやすい自分に馴染む構えを取る。
「ギギキキギキキキキィィィ!」
先程と同様。鎌鼬は己の得物である両手を広げ、突進。
そのすれ違いざま。
「フッ!」
殴打を繰り出す体の捻りを利用し、相手の斬撃の回避行動を重ね。
狙いはカウンター。供助は右手を最小の動きで拳を振るう。
目の前を刃物が通ると同時、振るった右手に感じた手応え。
――――だが。
「ちょいと鎌を気にし過ぎた。大きく躱した分、当たりが浅かったか」
供助は握り拳解いた右手をプラプラと振り、力を抜く。
そして、そのまま髪を掻き上げた。
「だがま、悪くは無ぇ結果か」
後ろへ目を向けると。鎌鼬は地に転がり、鼻頭に皺を作って苦悶の表情。
供助のカウンターは成功し、鎌鼬の横腹に拳が打ち込まれていた。
正直、クリーンヒットには程遠い。むしろ掠り当たりに近かった。
だが、供助の霊力が強く、それでも与えたダメージは大きい。
要は馬鹿力。技術や器用さが無い分、供助の瞬発力、爆発力はとてつもない。
「ギギキ、ギキ……キキキ」
殴打された横腹の痛みに耐えながらも、鎌鼬は立ち上がる。
口からは吐血し、致命傷ではないにしろ大分弱まっているのは明らか。
「足が止まりゃあ殴るのは楽だ……!」
再び両手を握り直し、供助は不敵に微笑む。あと一撃で屠れるという勝利の確信。
利き足に力を入れ、一気に踏み込む。地を蹴る。
狙いは頭部。一撃粉砕。拳撃万歳。
姿勢を低くし、相手を捉え、距離を詰めんと疾走し――――。
「んがっ!」
転けた。
顔から盛大に、勢い良く見事に。ずっこけた。