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     旅行 -カエリミチ- 陸



    ◇   ◇   ◇



「マジでスミマセンでした」

「本当にご迷惑をお掛けしました」


 南に頭を鷲掴みにされ、五分間の説教をされた後輩達。

 二人の頬は痛々しく腫れており、言い訳をした罰にビンタを一発ずつされた後。

 反省して供助と和歌へ、頭を下げて文化祭の事を謝るのだった。


「怪我させられたり停学喰らったりと色々あったが、面倒臭ぇからもういいっての」

「あたしも、もう何もしてこないって言うんなら……」


 供助はぶっきらに頭を掻いてから、これ見よがしに溜め息を吐く。

 和歌もここで何かを言ったら、南がさらに怒るだろうと。

 二人は話さずとも互いに、ここで事を収めた方が無難だと察したのだ。


「テメェ等、二度とこの二人に手ェ出すなよ。他の奴等にも言っとけ」

「はい……必ず伝えておきます」


 南の近くに居た金髪の頭を、最後に一回軽く叩く。

 文化祭の時とは一転して、借りてきた猫のように大人しい。

 それ程、後輩二人にとって南は頼れる先輩であると同時に、怒らせたら恐ろしい先輩なのだろう。


「お前らも大変だな、南が先輩だと色々面倒だろ」

「ちょ、古々乃木先輩!? ンな事ないッスよ! むしろあたしが大変なんスよ! 現に今、こうしてこのバカ二人の尻拭いしてるじゃないッスか!」

「それは昔、お前がそういう風な姿を見せてたからじゃねぇのか?」

「んぐ……! そこは何も言い返せないッス」


 高校入りたての頃は、それはまぁヤンチャだった南。

 今ではあまり口にはできない事もしていたとか、していないとか。


「あんな、お前等の為に言っとくぞ。この人にお礼参りすんのは止めとけ。あたしよか何倍も強ェぞ」

「姐さんより強いぃ!?」

「え、マジっすか!?」


 後輩二人は驚きの目を供助に向けて、信じられないと小さく漏らす。


「って言うか、この方って高校生っすよね? 文化祭の時に高校に居たし……なんで姐さん、タメ口じゃねぇんですか?」

「そこいらは深く詮索すんじゃねぇ。色々あって年下だけど先輩なんだよ、この人は」

「年下の先輩って……なんかややこしいっすね」

「そこは否定しねぇ」


 南からしたら供助は年下の後輩で、供助からしたら南は年上の後輩。

 なんともややこしい。しかし、あの南が年下の相手を慕ってるのだから、相応の理由があるのだと後輩二人は察知する。


「でも、久々に元気な姐さんを見れて良かったっす。事故に遭った後、退院したと思ったらすぐに高校を辞めたっすから」

「そうですよ。俺等の遊びや集まりにも来なくなって、連絡も付かなくなるし……」

「あー、悪かったな。あのあと色々あってよ、訳あって急に引っ越す事になったンだよ。新天地で忙しくて返事もろくに返せなくてよ」


 南は事故後に憑かれていた悪霊を供助に祓われた後、抑えの利かない霊視をコントールできるよう、供助が属する協会を紹介してもらった。

 いち早く霊視の問題を解決したかったのと、実家に居たくなかったのも重なって。南は知り合いの誰にも言わず、地元を離れていたのだ。

 怪異関連で新しい事を知る毎日と、霊感という今までで扱った事の無かった第六感。

 目紛(めぐ)るしい日々の疲れで、外界との連絡を取れる程の余裕が無かったのが一番大きな原因であった。


「ところで、あの……」

「ん? なんだ?」

「退院してすぐの頃に姐さん、なんか幽霊が視えるとか言ってましたけど……」

「あー、あれな。ありゃ事故の後遺症でな、時々幻覚が見えるようになっちまってよ。その治療もあって引っ越したンだ」

「そうだったんすか。じゃあ今は幽霊とかは……」

「安心しろ。いきなり騒いだり驚いたりしねぇよ」


 視えていない、とは言わない南。治療と言うのも強ち間違っていない。

 肯定も否定もしない、上手い言い回し。


「そ、っすか」

「ん?」


 金髪の後輩は何か言いたそうな、なんか歯切れの悪い反応。

 ほんの僅かな間であったが、南もそのれに気付く。


「いえ、なんでもないっす! 今回は本当、すみませんっした! じゃあ他の奴等を待たせてるんで!」

「また会ったら声掛けてください! 失礼します!」

「おう」


 しかし、すぐさま様子は元に戻って、勢い良く頭を下げる金髪。と茶髪。

 最後に南へ挨拶をした後、そそくさと足早で駅前の方へと去って行った。


「なんか変な出来事だったね、供助。まさか、文化祭の事を逆恨みされてるとは思わなかったなぁ」

「とりあえず、もう目の敵にされる事ぁ無くなったから良かったじゃねぇか」

「そうだけど、旅行の最後の最後で妙に疲れちゃった……」


 文化祭の一件で逆恨みを買い、供助にお礼参りを企んでいたとか。

 南が居なかったらもっと面倒な事になっていただろう。


「太一達を待たせてっから、さっさと戻るか」

「うん、そうだね」


 太一達がコンビニから戻ってきたところで荷物番を入れ替わってもらった。

 南に呼ばれて大体十分くらいか。旅の疲れもあって、明日は学校がある。これ以上長く待たせるもの悪い。


「ところで南、お前……」

「なんスか?」

「あの二人をあそこまで怖がらせるとか、って、どんな高校生活してたんだよ?」


 駅前まで繋がる道を歩きながら、半ば呆れて聞いてくる供助に。

 南は一度、明後日の方向へと目を逸らしてから、誤魔化すようにニカッと笑って見せて。


「そりゃもう、不健全で不健康な不良してたッス」


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