旅行 -カエリミチ- 肆
「お願いですから手伝ってくださいよ! あの野郎、マジで前に五人掛かりでもダメだったんすよ!」
「何を言われても手伝う気はさらさら無ェ。ってか、五人で囲んでダメだったんなら何やっても無理だろ。諦めろ」
「いやマジでやべぇんですって、そいつ。鉄バットのフルスイングを頭に喰らわせても倒れなかったんすよ!?」
「んな化けモンみてぇな人間、どこにいんだよ。手伝わせてぇからって話を盛るな」
「マジですって、盛ってないっすって!」
顔見知りに久々に会ったと思ったら、出された話題がお礼参りとか。
高校を中退したとは言え、今は真面目に働いて社会人をしている南ちゃん。面子がどうこうで人と喧嘩なんてもうしません。
職業的に人外を相手に喧嘩みたいな事はしてますが。
「ねぇ姐さん、マジでお願いします! 姐さんが居たらマジで勝てます! マジで!」
「しつっけーな。もう一発殴るぞ」
一度のセリフに『マジ』が三つ。語彙力の無さよ。
付き合ってられねぇと、南は呆れながら止めていた足を動かす。
「付いてくんなよ」
「タバコ! 手伝ってくれたらタバコ奢るっすから! 箱で!」
「そんくれぇテメェで買う。もう学生ン時のノリじゃねぇんだよ」
一向に諦める気配が無い後輩二人。
駅前に向かう南の隣を付いてきて、このままだと合流場所にまで付いてきそうだ。
というか、和歌達が待っている場所はもうすぐそこ。なんとかしつこい後輩を撒きたいところ。
「あんなぁ、こっちは人を待たせてンだよ。いい加減に諦めろ」
「そこをなんとか! マジで、マジでマジでお願いしますって! ねぇ姐さん!」
「あんましつっけぇと……あたしがオメェ等をボコんぞ」
さすがに南もイラついてきたか。
眉間に薄っすらと皺を作り、金髪の後輩を睨み倒す。
あまりの迫力に、睨まれていない筈の茶髪の後輩の方が尻込みしてしまう程。
「あ、姐さん! アイツっすよ、アイツ! 今話していたシメる相手!」
「だーかーら、あたしは何もしねぇってんだろ。巻き込むな」
「とりあえず見てくださいって! 」
手伝う気も無ければ、興味も無い。
しかして、指を差されたら目で追ってしまうのが人の性。ボタンを押すなと言われれば押したくなるように。
つい、ふと。視線を向けた後輩の指の先に居た男性。それを見るや否や、南の眼光が鋭くなっていく。
「おい、さっきから話してる野郎ってのは、あそこに居る人で間違いねぇのか?」
「そっす! 後ろ姿だけど、あの焦げ茶色の髪は間違いないっす!」
「なぁるほど。オメェ等、ちっと話がある」
「ッ!? 姐さん、やってくれるんすか!?」
南はゆっくりと振り返り、後輩二人へと薄ら笑みを浮かべる。
その顔と言ったら、笑っているのに怖い事。小学生なら余裕でチビリそうな。




