旅行 -カエリミチ- 弐
◇ ◇ ◇
「しくったなー。そういや予約してた車は軽だったの忘れてた」
レンタカーショップから出て、開口一番。南は頭を掻きながら独りごちた。
荷物も多く、和歌達を各自の家まで車で送ってあげようと思っていた南。
しかし、元々は一人で依頼場所までの移動を目的としていた為、予約していたのは最大四人までしか乗れない軽自動車だった。
車種の変更をお願いしてみたが、運悪く他に空いている車も軽自動車しかないと店員に言われてしまっのだ。
そうなるとつまり、乗れずに溢れてしまう人が出てしまう。どうにかしたかったが、こればっかりはどうしようもない。
「しょうがねぇ。近い奴を先に送ってから、また駅まで戻ってきて残りを拾うしかねぇな」
出来れば全員を乗せて、一度で送り終わらせたかったのが本音だったが、交通法的に諦めるしかない。
南はこれでもまだ無事故無違反。ゴールド免許も見えてきているので、ここでつまらない運転で捕まるのは避けたい。
ちなみに霊感に目覚めた切っ掛けになった過去の交通事故は、当時の元カレの運転である。これが若さ故の過ちか。
「しっかし、なんでこう妙に車が多く混んでるかね。今日って日曜の夜だよな?」
週末の夜ならともかく、今日は休日最終日。なのに駅前には多くの車が行き交い、駅口にも結構な人が居る。
その原因は休日は休日でも、連休の最終日だから。南と同じく、旅行帰りで迎えの車やタクシーを待ってる人がほとんどだった。
そのせいで車で駅前を通るのは混雑に捕まりそうで、和歌達が待っている場所まで迎えに行くのは諦めたのだ。
一旦合流した後、レンタカーショップまで全員移動して車に乗った方がスムーズだと考え、南は待ち場所であるベンチの所まで向かってる最中。
ついでに一服でもしたかったが、歩き煙草はさすがに危ないので我慢する。喫煙所もめっきり減った今、愛煙家には生き辛い世の中になってしまったものだ。
南はスカジャンの内ポケットに伸びかけた手を止めて、ジーパンのポケットに手を戻したところで。
「やっぱそうじゃねぇか?」
「ああ、間違いねぇ。ラウィンで他の奴にも教えるわ」
カラオケ店の前を歩いていると聞こえてきた、ガラの悪い男二人の会話。
横を通るとアルコールの匂いがして、スマホを弄りながら段々と声を荒くなっていく。
「だから、今すぐ来いって! 全員でシメんだよ!」
男二人を横目で軽く見つつ、通り過ぎる南。
「あたしもあんな風にイキがってた時期あったなー」
そんな様子を見て、しみじみと懐かしむ。
高校に入った当初は南も相当荒れていて、気に食わない奴が居たら手を出す事も日常茶飯事だった。
未成年で酒と煙草もして、夜通し遊び歩くのも当たり前。何日も家に帰らないのも珍しくなかった。
二年前はあんなに荒んだ生活をしていたのに、今は危険な仕事ではあっても充実した日々を送れている。
何がきっかけで人生変わるか分からねぇモンだと、良い意味と悪い意味を含めて呟く南。
過去の自分に反省と気恥ずかしさを覚えると同時に、昔を懐かしんでいると――。