第百六話 旅行 -カエリミチ- 壱
空はどっぷり日が暮れて、星がきらきら。賑やかな駅前は、様々な店の明かりがネオンみたく煌びやか。
時刻は夜の九時を過ぎていて、まだ遅い時間ではないのもあって人通りもある。
楽しくも大変で、癒されたけど疲れた旅行はとうとう終わり。一同は長い長い帰路を経て、五日折市の駅まで帰ってきた。
駅前近くにあるベンチの前で、各々が電車の座り疲れで固くなった体を軽く伸ばしてストレッチしている。
が、数えてみると五人しかいない。夜の街に一番似合いそうな格好をしている、南がいなかった。
「南さん、もう少し時間掛かるみたい」
スマホを片手に、南からきたラウィンのコメントを確認する和歌。
南は近くのレンタカーショップで車を借りに行っており、なんでも今夜の内に明日の依頼場所まで移動する予定らしい。
夜の方が道が空いているから、その方が楽なんだとか。
「なら俺ちょっとトイレ行ってくるわ」
「あ、僕もちょっと飲み物が欲しいからコンビニに行きたかったんだ」
「そんじゃすぐそこのオーソン行こうぜ」
「うん。供助君、悪いけど荷物見てて貰っていい?」
「おう」
太一と祥太郎はベンチの上にリュックとショルダーバックを置く。
連泊の旅行で荷物も多く、帰りだからお土産もある。すぐ近くのコンビニでも、そんな大荷物を持って歩くのは面倒だった。
「供助、私もコンビニ行く! 小腹空いたからカラアゲちゃん食べたいの!」
「お前ほんっと食ってばっかの旅行だな」
「食い収めしなきゃ締まらんでの」
「締まるどころか弛んでんじゃねぇのか、その腹」
とか言いつつも、財布から二百円を取り出して渡す供助。
財布の紐が緩むのもこれが最後。明日からまた半額弁当生活なのだ。二百円くらいなら大目に見ているのだろう。
人前なのもあって今の猫又は猫耳と尻尾は妖気で隠しており、黙っていれば黒髪黒和服の美人さん。
なのだが、二百円を受け取ってコンビニに向かっていく姿は残念な事。一緒に歩いていく太一と祥太郎も、思わず苦笑いせずにはいられなかった。
「供助君は行かなくて良かったの?」
「特に欲しいもんもねぇし、トイレも駅中で行ったしな。それに和歌一人をここに置いてく訳にもいかねぇだろ」
「……」
「なんだよ?」
呆けたような顔で、供助の顔を黙って見つめる和歌。
そして、ふふっと小さく声を漏らして。
「んーん、なんでも」
嬉しそうに微笑んだ。
「と言うか、お前を一人にするとろくな事が起きねぇだろ」
「それは……はい」
が、すぐに笑みは消え去って申し訳なさそうな顔に。
過去の不運とダンスっちまった経験が、和歌の頭に過る。
前に二度も知らない男に絡まれており、二度ある事は三度ある。ここで一人にしたら、また面倒な事になりそうな予感がしないでもない。
「そういえば供助君、旅行中に全然写真撮ってなかったよね」
「写真ってあんま撮ろうとは思わねぇんだよな。柄じゃねぇし」
「せっかく皆で行った楽しい旅行だったのに、写真が無いのは勿体ないよ?」
「お前は事ある毎にパシャパシャ撮ってたな」
「だって、今の思い出が作れるのは今だけだもん」
そう言って、和歌は自分のスマホに入ってる写真データを表示し始める。
今の思い出を作れるのは今だけ。供助が前にも聞いた覚えがある言葉。
確か文化祭の時だったか。その時はまだ供助と和歌は仲が良くなく、こうして話せる間柄ではなかった。
それなのに和歌はクラスで浮いている供助にも文化祭に参加して、楽しい思い出を作って欲しいと言っていた時の言葉だった。
「あ、ほら見て。これ撮ってたの気付いてた?」
「いつの間に……全然気付かなかったわ」
「あとこれ、猫又さんがツインテールになった時の」
「あーこれな、笑ったよなー」




