宴会 -バーベキュー- 陸
「奴自身ではなく、奴が使用する道具がの……細い注連縄なのだが、それがとにかく嫌な雰囲気を醸し出しておった」
「注連縄を使うってのぁ珍しいな。儀式や広範囲の結界を張るのに使う事は多々あるが、一個人での除霊道具ってのは聞いた事がねぇ」
「不巫怨口女を注連縄で束縛し、奴を衰弱させてトドメを刺しておった。いや、衰弱という表現が正しいかも解らん。弱化、吸収、崩壊、分散……どれも当て嵌まらん、妙な感覚であった」
「知識が豊富な猫又サンでも言い表せれない力、か。興味が湧く半面、気味悪さも立つな」
「他にも木製の大針の武器、千本も使っておった。それで経穴を狙って刺してくる。私もそれでうまく妖気を練れなくされた」
「注連縄に千本……随分と渋いのをチョイスしてらぁ」
ヨーヨーやスタンガンを除霊道具として使ってる南も珍しい部類だが、注連縄と千本という組み合わせは聞いた事がなかった。
基本、注連縄での結界の効果は対象の弱体化、妖気の減少、身体の減衰などである。
しかし、その辺りの知識は猫又は当然持っている。それでなお、どう表現していいか解らないというのだ。
言い表せれない脅威。理解できない恐怖。その二つが合わさって、『異質』なのだろう。
「その七篠と言い、最近噂の『雑魚狩り』と言い、この界隈は話題に尽きねぇな」
「む……?」
飲み込むビールの苦みもあってか、頬杖したまま苦笑する南。
そして、気になる言葉が出てきて、頭に生えている猫又の猫耳がピクリと反応する。
「なんだの、その雑魚狩りというのは。格ゲーでコンボも出来ぬ人に乱入する奴の事か?」
「そりゃ雑魚狩りじゃなくて初心者狩りだろ。知らねぇのか?」
「初耳だの。そんなに有名なのか?」
「それなりにな。七篠と違って、雑魚狩りは誰も姿を見た人がいねぇらしい」
「見た人がいない? なら、ただの都市伝説なのではないか?」
「いや、ウチの協会でもかなり話題になっててな。ここン所、怪異が激増して依頼が増えてンだろ?」
「そうだのぅ。ほぼ毎日依頼があって忙しくて適わん」
「そんな中、すげぇ数の依頼を熟す奴がいるってぇ噂が流れて、なんでもその数は一か月に百件以上だとか」
「百件とはまた……私だったら御免だの」
「そんで、そんなに多くの依頼を熟せるって事ぁ、簡単な依頼ばかりを受けてんじゃねぇかって言われ始めて……」
「だから、『雑魚狩り』か」
「そういうこった」
正体不明で噂だけの存在。
しかし、百件という数の依頼を受けて全てを熟しているというのが本当なら、相当の実力者だと予想できる。
簡単な依頼だけとは言えど、その数を連続で受けていけるだけの継戦力――素の能力が高いと考えられる。
通り名と反して、もし本当に存在して敵対した際は、恐らく無事では済まないだろう。
「して、そ奴は祓い屋なのか?」
「さぁな。それすらも解らねぇ」
「正体不明の謎の祓い屋、もしくは払い屋……一応、敵ではない事を祈っておくかの」
現時点では噂の域を出ない。警戒するもしないも、そもそも会う事があるのかすら怪しい。
猫又は話半分に聞いて、二本の尻尾をゆらゆらさせながら、缶に入っている残りを一気に飲み干す。




