宴会 -バーベキュー- 伍
「うっわ、なにしとるんだの!?」
「っば、は……え? 古々乃木先輩と猫又サンの二人だけで、あのバケモンと戦ったぁ!?」
「うむ、そうだの」
「確かあれだろ、増援が来るまで一時間の足止めだとか……」
「二時間だの。結局は生徒達の状態が悪く、二時間も保たないと判断して二人で戦った訳だがの。ま、最後は祓い屋に持っていかれたが」
「待て待て待て待て、ちょっと頭が追い付かねぇ……二人でって、護送していた人達は何してたんだよ?」
「外から結界を張っておった。あとは不巫怨口女が封印から解かれた際に、負傷した者が多くおって戦える状態ではなかったと聞いておるの」
「っはー、マジか……」
南は額に手を当て、信じられねぇと項垂れる。
さっきまで機嫌良く飲んでいた酒の酔いも、一気に醒めた。
「どうした、飲み過ぎて頭が痛むのか?」
「飲み過ぎてねぇけど頭は痛ェよ」
猫又が声を掛けると、南はこれ見よがしに大きな溜め息を吐く。
「二人だけでって、あの不巫怨口女は特別高位封印指定のバケモンだぞ……」
「なんだの、その……トクホ? とか言うのは」
「特別高位封印指定だよ! 対象の強さや除霊の困難度を階級分けされる中で、一番ぶっ飛んでヤベェのがその“特高”に当てられんだよ」
「ほーん。でもまぁ正直、かなり危なかったが奴も封印明けで弱ってたからのぅ」
猫又は当時の事を思い返しながら酒をチビリ。
南が言う特高とか階級の事はよく知らなかったが、実際に不巫怨口女と戦った身として、奴が特質なのは肌で感じていた。
と言うか、横田はその辺の説明を一切していないとか、ちょっと職務怠慢が過ぎるのではなかろうか。
「私と供助とで何とか奮闘はしたが、最後に祓ったのはいけ好かん祓い屋であった。結局のところ、私達だけでは倒せてたかも怪しかったがの」
「あんなぁ、猫又サン。倒せたかどうかより、そもそも二人だけで長時間の足止めを出来てた時点でおかしいんだよ!」
「と言われてものぅ……御霊鎮めのお陰か、奴はかなり弱体しておった。そうでなければ私達ではあそこまで戦えてはいなかったろうて」
「映像の不巫怨口女を見た感じ、あたしからすりゃ十分に突飛抜けたバケモンだっつの……!」
今になって知らされる事実に、南は半ばやけ気味にビール缶を煽る。
酒ッ! 飲まずにはいられないッッ!!
「ん? そいやそのトドメを刺したって祓い屋……名前は七篠、だっけか?」
「知っておるのか?」
「その辺の話も横田さんから軽く聞いててな。あたしは会った事はねぇけど、厄介な奴らしいな」
「厄介、厄介……ま、そうだの。奴と会ったのは二度か。金銭第一の男での、自身が儲かる事が最優先で、その為には状況を混乱させる事も意に介さん……その気構えが気に食わん」
「払い屋と違って祓い屋ってぇのは、自分の事しか考えねぇ奴が多いかんな。ウチの何人かも、その祓い屋に横取りされたってのを聞いたわ。そんで、その祓い屋は強ぇのか?」
「強い……のもあるが、それ以上に異質という方が印象に残っておる」
「異質?」
返ってきた予想外の言葉に、南はテーブルに帆杖を突いて訝しむ。
黒の革ジャンに黒革のブーツ。黒いニット帽を被った黒尽くしの格好。そして、黒ばかりの中だと余計に目立つ、赤い髪。
決して相容れる事は無い、いけ好かない祓い屋の記憶を振り返っていく。




