第百五話 宴会 -バーベキュー- 壱
空の青色に向かって、灰色の煙がモクモクと昇っていく。
そして、煙の量と比例して、辺りには肉が焼ける香ばしい臭いが漂う。
時刻は午後二時過ぎ。少し遅くなった昼食……兼、宴会。
昨晩の奮闘を労う宴が、今始まる。
「カンパーイ!」
全員の声が重なり、各々が手に持ったグラスが小気味良い音を奏でる。
ジュース、あるいはお酒。好きな飲み物で全員が勢い良く喉を鳴らした。
「っかー、堪んねぇなぁオイ!」
「昼間っから飲む酒は格別に美味いのう!」
神社で飲んだノンアルではなく、今度はちゃんとしたアルコールの入った銀色のヤツ。
ひと仕事終えた後の解放感と、真昼間から酒を飲むという背徳感。
この二つが合わさってなお一層、酒が美味しく感じる。
「おっしゃ、肉食おうぜ、肉! やっぱビールには肉だろ!」
「太一、もう焼けてる肉はないのかの!?」
アルコールが入って特におテンションが騒ぐ二人。
鍋奉行ならぬ網奉行の太一に、肉の催促をする。
さっきから炭火の上で良い音と良い匂いをさせて、肉が焼かれているのだ。早く食いたくもなるだろう。
「あ、この牛タンなら食べれますね」
「寄こせ!」
「くれっ!」
二人はアウトドア用の紙皿を太一に差出し、焼けた牛タンを貰う。
タレは付けない。まず最初は塩コショウのみ。
厚みのあって大きい牛タンを、一口で。
「うっま……」
「やべぇ、これめっちゃやべぇの」
一噛み、二噛み、三噛み。
弾力のある肉厚に、程良い歯応え。噛めば噛むほど肉の旨味と、胡椒の香りが鼻を抜ける。
そしてそれを、一気にビールで流し込む。
「あー、ダメだ。最高過ぎんだろコレ」
「優勝……これはもう優勝だの、わたし優勝。今シーズン負け無し」
二人揃って箸を握りしめ、薄っすらと涙を浮かばせて。あまりの美味しさに、感激で身を震わせていた。
その反応を見ながら、他の者達も追って肉を食し始める。
「わっ、この牛タン、すっごく美味しい」
「ホントだ! 厚切りなのもあるけど、めっちゃ歯応え合ってジューシーだ!」
和歌と祥太郎も牛タンを頬張ると、予想以上の美味しさに驚く。
そりゃそうだろう。なんたってこの牛タン、オーナーの知り合いから仕入れてきた物で、一度も冷凍されていないのだ。新鮮さが違う。
しかも、ブロックのままで貰ったので、厚さは好みに合わせられる。多数決の結果。満場一致で厚切りになったのだ。
「なぁ供助、俺、こんなに美味い牛タン初めて食った……」
「俺もだ。こりゃ確かに美味ぇわ」
太一は感激のあまり涙を流し、供助も食べながら頷いてしまう。
「肉も海鮮もたんまりあるかな、ドンドン焼いてくぞー!」
トングを持った太一は網の空いたスペースへ、次々と新しい肉を追加していく。
ファミリー用なのもあって炭コンロもなかなかの大きさで、一度にそれなりの量を焼く事が出来る。
が、この場に居るのは食べ盛りの学生四人に、呑兵衛が二人。肉の消費スピードは半端じゃない。
焼く、焼く、焼く。とにかく焼く――ッ!
「トントロとカルビ、もういけますよ」
「太一、こっちにくれ!」
南と猫又は折り畳み椅子に座り、簡易テーブルを陣取って酒盛り。
もう歩いて動くのは面倒になってる年長者達は、椅子から立たずに手招きだけで催促する。
二人のテーブルに運ばれてきた大き目の紙皿には、こんもり盛られた肉。
「トントロとカルビか……ならここは」
「タレにたっぷりのニンニク、だの」
「しかねぇよなぁ?」
「しかねぇのぅ」
市販の焼肉のタレにチューブのニンニクをぶち込み、まずはトントロを食べる。
一切れ? 否、二切れ同時。
「うおォン! 私はまるで妖怪火力発電所だの!」
口いっぱいに肉を頬張り、口内の油をビールで流す。なんと幸せな事か。
酒の勢いは止まらず、早くも二人は二本目を空けるのであった。
肉だけでなく海鮮に野菜も。どれもが美味しく、各々が舌鼓を打たずにはいられない。
食べて、飲んで、騒いで。昨晩の健闘と、友人の旅立ちを祝って。
一同は豪華なバーベキューを全力で満喫するのだった。




