感謝 -ヒトリゴト- 弐
「あー良かった! ここで待ってれば会えると思ってたよ!」
南が煙草を口に咥え、ジッポで火を点けたところで。聞き覚えのある男性の声が聞こえてきた。
南がバンの裏側から顔を出して覗くと、和歌達の方へと歩いてくる初老の男性がいた。
「いやー、あっはっは。駐車場に車があったから近くに居るのは分かっていたんだけど、さすがにこの荷物を持って歩くのはしんどくてね」
褐色の焼けた肌に、白い髪と髭。そして、濃い柄のアロハシャツが特に目立つ。
その人物は供助達が泊っているペンションのオーナーで、笑いながら大荷物を持ってきた。
大きめのクーラーボックスが二つと、これまた大きめの発泡スチロールの箱を一つ。
「どうしたんです? こんな大荷物」
「君達に渡そうと思ってね」
どっこいしょ、と言って。オーナーは肩に掛けていたクーラーボックスと、手に持っていた発泡スチロールの箱を地面に置く。
そして、一つのクーラーボックスの蓋を開けると。
「わあっ!」
その中身を見た和歌は驚きの声を上げ、気になった太一と祥太郎も中を覗き込んで見ると。
「すっげぇ、高そうな肉だ!」
「それもボックスにいっぱい入ってるよ!」
そこには脂の乗って輝くお肉に、分厚い赤身肉。
他にも色々な種類の肉が所狭しと入っていた。
「おーっ! ホルモンに牛タン、ラムもあるではないか!」
目の前に御馳走が現れてテンション爆上がりの猫又。食い入るようにクーラーボックスの中を目移りさせる。
一同の盛り上がりが気になり、バンの裏からヒョコヒョコと頭を出してくる南。
「でも、なんでこれを私達に?」
そして、浮き出てくるは当然の疑問。
オーナーはこの食材を渡すと言っていたが、これらを貰う理由が分からない。
ペンションに泊まってはいるが、あくまで素泊まり。食事は付いていなかったはずだ。
「ん? なんでって、神隠しに遭っていた子供達が無事に戻ってきただろう?」
オーナーは猫又と供助へと視線をやって。
何かを言いたげに口端を吊り上げた。
「あー、らしいっすね。で、それが俺達と何か関係が?」
オーナーの胸の内を察した供助の態度は白々しく、知らぬ存じぬと。
あくまで自分達は神隠しの件とは無関係だと惚けるのであった。
「いやー、君達が来た途端に神隠しの一件が解決したからねぇ。何かしてくれたんじゃないかと思ってね」
「あたし達を買ってくれんのは有り難ぇけど、残念ながら無関係だ」
煙草を吸い終えた南も会話に混ざり、携帯灰皿に吸殻を仕舞いながら歩いてくる。
「そうなのかい? タイミングが良過ぎて、てっきり君達が関わってると読んだんだが……」
「子供達は夜中に見付かったんだろ? その頃にゃあたし達はドンチャン騒ぎした後でぐっすり中だ」
「そうか……随分と傷だらけだが?」
「今言ったドンチャン騒ぎで、はしゃぎ過ぎて酔ってコケた」
澄ました顔でホラを吹く南。依頼として受けていない一件なのもあって、オーナーに要らぬ気遣いをさせない為でもあるが……よくスラスラと嘘が出てくるもんだ。
しかしまぁ、ドンチャン騒ぎ、というのはあながち間違っていないか。騒ぎの相手は堕ちた天狗と穢れた神だったが。
そんな少し素っ気ない態度の南に対し、オーナーはどこか嬉しそう。