第百四話 感謝 -ヒトリゴト- 壱
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友人を見送り終わって、神社から出て歩道を歩く一同。
神事が終了しても祭りはまだ継続されている。次の新神を歓迎しているという意味も込めて、祭り自体は夕方まで行われるそうだ。
そんな賑やかな祭囃子を背中で聴きながら、車が置いてある駐車場までの移動中。
南の頭に、ふと疑問が一つ思い浮かんだ。
「そいや神事が終わったって事は、新しい神が来たんだよな? 一応、お参りでもしといた方が良かったか?」
すでに神社を出て、車までの移動中。正直今さら感は否めないが、気になってしまったのも事実。
南はどうなんだと、隣に居た猫又へと顔を向けた。
「そう言うてもな、妖怪の私が神様に課金してお参りしてものぅ」
「お賽銭を課金って言うなよ」
「しかも当たりが入ってるかも分からん、お祈りガチャだしの。だったら別にいいかのぅ」
「参拝をお祈りガチャとも言うなよ」
なんとまぁ罰当たりな言い方をする猫又。
黒い和服の裾に手を入れて腕を組み、小さく鼻を鳴らした。
「それに新神が来る前に面倒な事件を解決したのだ。お参り以上の貢献はしたであろうて」
「まぁ言われてみりゃそうだな。参拝しなかった事ぐれぇ大目に見てくれっか」
南は片腕をスカジャンのポケットに入れ、右手で下唇を落ち着きなく触る。
ヘビースモーカーとまではいかないが、もう煙草を二時間以上は吸えていない。
愛煙家の南としては、そろそろヤニを補充したいところであった。
「駐車場にとーちゃく、だの」
歩いて五分程。神社の専用駐車場に着き、自分達が乗るバンを探す。
相変わらす駐車場は混んでいて、パッと見でも空いているスペースは見当たらない。まだ祭りは行われているのだから、当然と言えば当然か。
どこに車を停めていたかは大まかに覚えていたのもあり、見付けるのに時間は掛からなかった。
「どうよ、委員長。どっか良い店は見付かった?」
「うーん、見付かったは見付かったけど……多くて逆に悩んじゃう」
スマホで近くの海鮮料理店を検索して、美味しそうな所を探していた和歌。
しかし、海が近いからかお店は結構あり、料理の写真を見るにどこの料理も美味しそうなのだ。
お刺身、天ぷら、お煮付け、焼き魚。他にも網焼きや酒蒸しなんかもある。
こんなに種類があれば悩むのも無理はない。
「まだ探すのに時間が掛かるなら一本いいか? さすがにちょっと吸いてぇ」
「あ、はい。すみません、時間掛かっちゃって」
「気にすんな気にすんな。どこの店も美味そうなんだろ? 悩める幸せってヤツだ」
「ちなみに南さんは何が食べたいですか?」
「刺身か天ぷら」
南は和歌に答えながらバンの裏側に移動し、スカジャンの内ポケットから煙草とジッポを取り出す。




