神事 -タビダチ- 参
「頭を上げて、結花ちゃん。友達として手伝っただけなんだから。って、何も役に立てなかった私なんかが言える事けど……」
「和歌ちゃん……ううん、そんな事ないよ。私の姪が行方不明って話をした時、知り合ったばかりなのに和歌ちゃんは親身になって話を聞いて、本気で心配してくれて。私、本当に嬉しかったの」
「そんな、私は……」
「何も出来なかったけど、何もしてなかった訳ではないでしょう? 何かしてあげようとする優しさは、周りの人の心を温かくするわ」
「人の心を、温かく……」
「私なんか、なんて悲観しないで。あなたは自分が思っているよりもずっと、誰かの救いになってるから。だから、どうかずっと、誰かを温める優しさを忘れないでね。和歌ちゃん」
「うん、わかった。ありがとう、結花ちゃん」
結花はそっと和歌の両手を握り、その温もりを確かめる。
初めて出来た人間の友達で、きっと最後の友達になるであろう、栗色の髪の少女を見つめて。
お別れの寂しさを飲み込んで、お互いに微笑みを交わすのだった。
「昨夜の一件は気にすんな。あたし等はあたし等で出来る事をやって、あんた等はあんた等で出来る事をやった。その結果すべてが丸く収まったなら、それで良いじゃねぇか。ッスよね、古々乃木先輩?」
「なんでこっちに振るんだよ。こちとら面倒事に巻き込まれた上に毒で死に懸けたっつーのに……ま、俺だって払い屋の見習いだ。見習い同士で立ち回りも詰めも甘かった。お互いまだまだだった、ってこったな」
「あたしは正社員ッスけどね。てか、バイトでそんなに強い古々乃木先輩がおかしいんスよ」
「俺も正社員並みの給料を貰いてぇもんだ」
「だったらまず高校を出る事っスね。卒業なり中退なりで」
払い屋の就職条件に高校卒業というのは無いが、在学中での正式採用は行っていない。
現に南は高校中退で、払い屋の正社員として働いている。
払い屋として働くのに必要な条件は『一定以上の霊感がある事』。これ一つである。
「そーそ。南さんが言う通り、立派な神様になるなら小さい事は気にすんなって」
「そうだよ。助けられたのはお互い様。そこは感謝はしても、自分を責める理由じゃないよ」
「太一、祥太郎……」
悠一の表情からその心情を察して、太一と祥太郎はフォローするように言葉を掛ける。
金髪で耳にピアスを空けてる太一は見た目に反して、眼鏡でまだ少し幼なさが残る祥太郎は見た目通りに。
二人は優しさを言葉にして、友人として激励するのだった。
「っと、神主が次の新神の依り代を持ってきた」
「そろそろ時間ね」
悠一に言われて神楽殿を見ると、白色の男性のような能面を付けた神主が一人。
能面の口に黄色い紙を挟まれ、神楽殿の中心にある二つの三方へゆっくりと。
片方の何も入っていない三方の前で正座で座り込んだ。