第百三話 神事 -タビダチ- 壱
「悠一!?」
「よっ、太一。お前も暇そうだな」
「供助と同じで、俺もこういうのは苦手でさ……」
太一は金髪の後頭部を掻きながら苦笑いを浮かべる。
「てか、今やってる神事って新しい神様を迎える為のものなんだろ? お前の儀式なのに抜けてきていいのかよ」
「結花に任せてあるから暇になった」
悠一は太一の隣まで移動し。まるで他人事のように返してくる。
それに対して猫又は、やれやれと小さく首を振りながら溜め息一つ。
「面倒な事は女房に任せる……こういう旦那の小さな怠惰から離婚が始まるんだのぅ」
「いやいやいや、そういうんじゃないから。離婚とか止めて。神で破局とか洒落になんないから。本当に俺がやる事は終わったんだよ」
「儀式の最中にやる事が無くなるとかあるのかのぅ?」
「祝詞は新しい神が降臨する場所を教えつつ迎え入れて、舞は歓迎の表してるんだ。ここで今の土地神と、次の新神が初めて顔合わせをするっていう天順になっている」
「舞とな?」
悠一に言われ、猫又が視線を神楽殿に戻すと。
いつの間にか雅楽の演奏者とは他に、舞を踊る演者が三人増えていた。
「で、今の雅楽を演奏してる間は新しく来た神をここに繋ぎ止める時間。つまり引き継ぎだな」
「その引き継ぎを嫁に任せて自分は遊び歩きか。やはり離婚待った無しかの、こりゃ」
「だから、離婚とかやめくださいよ、猫又さん。新しく来た神が女だったから、結花に任せたんだよ。和歌達を待たせっぱなしも悪いから、俺だけでも先に行ってろって結花に言われたのもあったし」
神様に対して失礼極まりない猫又に、怒りもせず苦笑して流す悠一。
その余裕を見て安心しながら、猫又は神楽殿の方を指差した。
「ところで少し気になっておる事があるんだがの。神楽殿の中心に二つ、三方が置いてあるが……」
「三方?」
聞き慣れない単語に反応したのは、隣の南。
指差された神楽殿の方へと目を向けて、どれの事なのか探してみる。
「お供え物などを乗っける木製の台だの」
「あー、あの下に丸い穴が開いてる鏡餅とか乗っけるヤツか。んで、それがどうした?」
「その二つの三方の片方だけに、折り紙が置かれておっての」
「折り紙ぃ? こっからよく見えんな、猫又サン」
「この祭りではあちこちに折り紙が飾られておったろう? その折り紙があそこにあると言う事は、なんの意味があるのかと思っての」
南は目を細めて凝視してみるも、それでもよく見えない。
それなりに離れた距離な為、人間の南の視力では目で捉えるのは難しかった。
その問いに悠一は、あぁあれか。と一言挟んでから答える。
「あの折り紙は俺達の依り代さ。祭りを見ての通り、この町では折り紙が祈祷の道具として使われているからな。依り代には最適なんだよ」
「確かに。この町の風習からして持ってこいの依り代だの。もう片方の三方が空なのは、次の新神の依り代を置く為か」
「ちなみ今年の新神の依り代は扇子の折り紙らしい。俺と結花は手裏剣だった」
「手裏剣、か。なるほどの、だから夫婦神か」