雅楽 -マチボウケ- 伍
「何が寝て待てだ。普段からグータラ寝てるじゃねぇか」
ビニール袋を片手に買い物から戻ってきた供助が、猫又にツッコミを入れる。
「早かったッスね、古々乃木先輩」
「出店が近くにあったからな」
南に答えながら、供助は持っていた袋の中を漁り始める。
太一も一緒に袋に手を突っ込み、それを近くに居た二人に渡す。
「委員長、ほい」
「え、いいの?」
「供助の奢り。祥太郎はいつもの」
和歌にはミルクティー、祥太郎にはファンタのグレープ味。
両方とも二人が好んでよく飲むものだった。
「ありがとう、供助君」
「ゴチになるね」
「おう」
二人のお礼に対して素っ気なく返す供助。
恥ずかしがってるでも面倒がってるでもない、元からこういう態度を取る性格なのは二人は知っている。
「供助、私のは!? 私の分は無いのかの!?」
「あるってうるせぇな。寝て待つってのはどこ行ったんだよ」
相も変わらず食い意地が張っている猫又に辟易しながら、面倒臭そうに缶を渡す。
大人の飲み物である、鈍色のアレを。
「銀色のヤツだのー!」
「おっ、あざーず。古々乃木先輩」
ひゃっほうと喜ぶ猫又と、煙草が吸えず口寂しい時に丁度良いと南。
今日は休日。しかも祭り。周りにも昼間から酒を飲んでいる人がチラホラいて、世間の目を気にする必要もない。
「では南、カンパーイ」
「おう、カンパイ」
――――ゴクゴクゴクッ。
「ノンアルだこれ!」
「ノンアルだこれ!」
綺麗にハモる二人。
銀色は銀色でも、アルコールが入っていない銀色の缶だった。
「当たり前だ。南は車の運転あんだろ」
「でスよねー。まぁ最近のノンアルも結構うまいからいいッスけど」
運転手である南は予想していたようで、不満無くノンアルを飲んでいく。
飲んだら乗るな。乗るなら飲むな。飲酒運転、ダメ絶対。
「ぬぅ……運転しない私はノンアルじゃなくても良かったんだがのぅ」
「飲めねぇ南をよそに一人だけ酒飲んで楽しいか?」
「まぁそれもそうだの。酒はペンションに戻ってからのお楽しみにしとくか」
猫又は少し物足りなそうにするも、お楽しみは後に取っておいた方が良いかと缶に口を付けた。
供助も自分用に買ってきたコーラを口に含み、ゆっくりと喉に流し込む。
「……腹減ってる時に炭酸はやめといた方が良かったか」
空腹時に炭酸を飲むと胃の中で泡が広がるのか、爽快感のある炭酸の筈なのに胃に違和感が残る。
「古々乃木先輩、朝飯あんなに食ってたのにもう腹減ったんスか?」
「今日は妙に腹ぁ減るんだよなぁ」
「だったら一緒に食い物も買ってくれば良かったじゃないスか」
「海に近い町に来てるなら、昼飯はどっかの店で海鮮物を食いてぇっつったのは誰だよ」
「あ、あたしっスね。それで食い物を買うの我慢したんスか?」
「そりゃ俺だって食うなら旨いモンがいいからな」
この神社に向かっている時の車中で、南が提案してきたのだ。
海に来たなら海の物を食べたいから、昼食は海鮮がおいしい店に行かないか、と。
それに一同は賛同して供助もまた、それを楽しみにしていたのだ。
「しっかし、なんでこうも儀式ってのは無駄に長いかねぇ」
つまらん。飽きたと。供助は暇そうに欠伸して、半目には薄ら涙。
買い物から戻ってきてもまだ雅楽が奏でられており、本当に時間が経っているのか疑いたくなる。
「供助君、そうボヤいちゃダメよ」
「そうだよ、供助君。神聖な儀式なんだから」
そんな供助を注意する真面目な二人。
和歌と祥太郎が学校で優等生なのもあり、長時間の勉強にも慣れていてこういうジッとして鑑賞するのは苦ではない。
さすが眼鏡キャラ二人。勤勉さのレベルが高い。
「いやぁ、さすがに俺も長いと思う」
そこに現れたのは、甚兵衛姿の男性。
待ち人である悠一であった。




