第百二話 雅楽 -マチボウケ- 壱
陽が高く昇り、秋の陽気でほんわか暖かい。風も無くて絶好の行楽日和。
海に面したこの町ではお祭りの真っ最中。三日間行われる祭りも今日が最終日で、今も多くの人で神社は賑わっていた。
入り口である鳥居から境内まで続く長い石階段に、広めの参道には沢山の出店が並ぶ。
至る所に折り紙が飾られ、祭りに参加する者達は皆、笑顔を浮かべて楽しそう。
昨日よりも一層、活気のある祭りの空気を感じて、供助一同は悠一と結花を見送るべく祭りに来ていた。
「まるで憑き物が落ちたように笑ってやがらぁ」
神楽殿全体を見渡せる、少し離れた場所で待ちぼうけしている一同。多くの人が集まって祭事を鑑賞し、辺りには独特な楽器の音が奏でられ響く。
そんな祭りに参加する人々を見て、南がポツリ。
昨日も昨日で賑やかだったが、楽しんでいる様子の陰では何かに怯えるような気配があった。
幼児連続行方不明事件……または神隠し。この町で怪奇な事件が連続で起き、住民は不安を抱えていた。
が、その行方不明になっていた子供達が全員戻ってきたと、町では朝からその話題で持ち切りなのであった。
「それもそうであろう。神隠しに遭っていた子供達が揃って帰ってきたのだ。未解決事件が終わりを迎えて、不安の種が消えたのだからの」
南の独り言に返すは、隣で人混み眺めている猫又。
そして、その人混みの先にある大きな神楽殿。今まさにこの神楽殿で祭事が行われている最中で、神主と思われる男性が長い祝詞を読んでいる。
白布や生絹で作られた着物と下半身には括り緒と呼ばれる物を着衣し、頭には黒い立烏帽子を被った姿。
浄衣という羽織を上に着た。格衣と呼ばれる装い。
神事や祭祀など儀式の際に着用されるもので、日本における衣装の一つである。
それを心底つまらなそうに見てる供助が、欠伸をしながら猫又の言葉に続いていく。
「ガキが帰ってきても犯人は未だに不明、ってなってんだろ? 警察からしたら情けない話だ」
「怪異絡みの事件だからのぅ。そこら辺は仕方あるまいて」
「妖怪でもうこの世にいねぇ犯人を、警察はこの後も探す訳だ。税金の無駄だな」
すでに存在しない犯人の捜索を継続し、子供達が攫われた理由も戻ってきた理由も不明のまま。
警察としては喉に骨が引っ掛かったままの、なんともスッキリしない事件だろう。
「かと言って、あたし等が警察に名乗り出て『犯人は妖怪で、僕達が倒しました! もう大丈夫です!』なんて言ってもな。冷ややかな目で見られておしまいだ」
「南なんかは目つきが悪いからの。下手したら逆に怪しまれて取り調べされるのがオチだの」
「うっせ」
三白眼で目つきが悪い南はさらに目つきを悪くさせ、猫又に悪態をついて返す。
確かに、今の南を見たら警察も警戒してしまうだろう。そんぐらい目つきがヤバい。