査定 ‐サテイ‐ 肆
「なんだの、それは?」
「霊印を付けた手袋だ。これでブン殴るのが俺の方法なんだよ」
「えらく変わったものを使うのぅ」
「かさ張る道具は苦手なんだよ。不器用だからな」
「うむ、不器用なのは知っておる。包帯もまともに巻けん程なのもの」
「うっせぇ。猫又、今からちょいとした事をすっけど機嫌悪くすんなよ」
「ぬ?」
供助は軽く息を吐いて、腹の底に力を溜める。
そして、猫又の返事を待たずに。
「ふっ!」
一瞬、自分の霊力を辺りへと放出させる。
廃墟内だけでなく、外の敷地内まで届く強さで。
「私の返答を待たずにやりおって」
「だから言っただろうが、機嫌悪くすんなってよ」
供助は霊力を放ったが、威力や量は非常に弱いもの。攻撃を目的としたものではない。
猫又には肌がピリッとした程度で、痛みはほぼ皆無。例えるなら、不意に頬へ静電気が走った感じと言えばいいか。
「だが、確かにこれなら向こうから現れるだろうの」
猫又は腕を組み、納得といった様子。
供助が霊力を辺りに放ったのは、妖怪を誘き出す為。
いきなりちょっかいを出された上に、自分達の寝床へ勝手に入って来たのだ。
相手が頭に血が上るには十分。
「いつ現れるか解んねぇんだ、準備だけはしとけよ」
「言われんでも、もう出来ておる」
猫又は腕を組んだまま、辺りへと意識を向ける。
供助も同様、霊感だけでなく耳も澄ませ聴覚も集中させる。
「……供助」
「来たな」
「うむ」
猫又は鼻を鳴らし、自分達が歩いてきたのとは別の通路の方に目をやる。
また供助も同時に、同じ方を向いた。
――――そこには。
「……キキ、キキキ」
一メートル程の大きさの物体。
茶色い毛並みに、狸のような丸みのある尻尾。四足歩行で手足は短く、鼻周りが黒い。
パッと見では動物に見えるが、供助達に向けて放たれる敵意の篭った妖気。
本日の依頼標的が現れた。