金色 -テガカリ- 肆
「そういや、あと一つ」
「ん?」
「その金色の妖狐が現れた時、鈴の音を鳴らしていた。とも言ってたな」
「鈴の音、とな……?」
猫又の記憶に、ある事が一つ引っ掛かる。
少し前に供助から聞いた事があった。小さい頃から供助は、たまに鈴の音が聞こえると。
そして、南が言う金色の妖狐は、鈴の音を鳴らしていたと言う。この共通点は偶然か、それとも――。
「南、この話は供助には黙っておいてもらえるかの?」
「……? まぁ、妖狐の件は猫又サンの問題だからな。あたしから変に言い触らすつもりは元から無ぇが……」
「少し思うところがあっての。私から後で供助に話すが、今はまず休息が最優先だからの」
「けど、横田さんには報告しなきゃならねぇ。さっき電話の最後に、あとで詳しく聞かせろって言われちまったしな」
「構わん。むしろ伝えてくれ。本当ならば自身の足で探し回りたいという気持ちもあるが、今の立場を利用した方が賢明だの」
「協会の情報網を利用するってか?」
「横田とは元からそういう約束での。それにケガレガミとの戦いで消耗もしている。感情に任せて動くのは利口ではあるまいて」
「妖怪の猫又サンが払い屋なんかになったのはそれが理由か。確かに、一人で探し回るよりか効率的だ」
「正直、そう簡単に情報が入るとは思うておらんかったが……意外なところで出てきおった。今は浮足立ちそうなのを我慢して、いざという時の為に足元を固めておくべきだの」
猫又はビール缶の縁を指で軽くなぞり、僅かに目を細める。
長年追い続けた仇。ここで焦って逃すよりも、しっかりと準備を進め、確実に見つける事が出来るまで情報を待つべきだと。
ぐるぐると入り混じった様々な感情を押し込むように、猫又はビールの最後の一口を飲み込むのだった。
「ま、色々あるんだろうとは思うけどよ。今あたし達が優先すべき事は、休む事だ。猫又サンも疲れ切った状態じゃあ思考も鈍るってもんだ」
「そうだの。まずはゆっくり休み、疲れた体を癒すのが先決か。慰安旅行で来た筈なのに、逆に疲れ切ってるとは矛盾しとるのぅ」
「結局は疲れて家に帰ってくる。旅行ってのはそんなモンだ」
「遊び疲れなら満更でもないが、旅行とは関係ない事で疲れるのは勘弁だの。最近の旅行は妖との戦闘がオプションで付いてるのかの?」
「払い屋には付いてるらしいぜ。昼間にも急な依頼が入っただろ。最近は忙しいからなー」
「そういえばそうであった……思い出したら余計に疲れてきたの……」
「んじゃ寝るか。流石に今日は依頼は無ぇだろうし、ぐっすり眠れそうだ」
南は吸い終わった煙草をビール缶の中に入れ、軽く背中を伸ばす。
秋の少し肌寒い空気に、紫煙の残り香を漂わせて。二人はペンションの中に戻るのだった。
「しっかし、ちょっと残念だったなぁ、古々乃木先輩の霊気入りの畜霊石。お守りに取っておく気だったのによ」
「その内、消化されずに供助の尻からで来るのであろう? それを回収すればいいではないか」
「あー、それもアリか」
「……」
「そっちから言っといてドン引きすんなよ。冗談に決まってんだろ」




