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    金色 -テガカリ- 参

「今にも飛び出していきそうな顔だったじゃねぇか」

「……居場所も分からず飛び出すような馬鹿ではない」

「馬鹿じゃなくて助かったぜ。あたしじゃアンタを止められねぇ」

「よく言う。私が飛び出ていかないと踏んだ上で、こうして教えてくれたのだろう?」

「んっだ、読まれてンのかよ」

「それはお互い様だろう」


 南はスウェットのポケットから煙草と銀色のジッポを取り出し、カキンと軽い金属音を鳴る。

 火を付けられた煙草からは紫煙が昇り、南の口からも同じものが吐き出された。


「今の供助を置いて出て行っておったら、私は軽蔑されておったか?」

「さぁな。ただ、こうして安酒を小突き合う事は無くなってただろうな」

「それは危なかった。周りは学生ばかりで、こうして酒を奢ってくれる存在は貴重だからの。ご機嫌を損なわないようにせんとのぅ」

「はっ! だったらあとで肩でも揉んで貰いてぇモンだ」


 猫又の雰囲気は元に戻り、会話中で十分にクールダウンができた。

 もっとも、それを分かっていて南も軽口を交えた節があるが。


「狐の妖の居場所について、天愚は何か言っておらんかったか?」

「悪ィが期待に添える答えは得られなかった。この地にフラッと現れたらしい。それに天愚自身も、そいつに良いように使われてたようだった。変に期待させてすまねぇな」

「いや、そうでもない。私が探し続けてから何も情報を掴めなんだ奴が……今も存命していると知れただけで十分だの」


 再び、猫又から発する空気が変わる。先程よりも小規模ではあるが、いつものおちゃらけた態度とは正反対の雰囲気。

 恨み辛み憎しみ。そして、後悔が入り混じった感情の渦。

 すぐに収まりはしたが、やはりその強いギャップと異質さに、南は身震いを覚える。


「それと奴は狐の妖に、神を見返す力が欲しかったら『レンモンサワに来い』と言われたらしい」

「レンモンサワ? 酒みたいな名前だのぅ」

「響きからして地名っぽいが、聞き覚えは?」

「無い。初耳だの」


 猫又は微かに眉を顰め、鈍く光るビール缶を見つめる。

 これだけの情報では予想も予測も出来ない。しかし、何か嫌な予感がする。


「神を見返す力、か。安っぽい言葉ではあるがインパクトはある。加えて不穏な言葉だの」

「新手の詐欺の方がもっと心惹かせる言葉を使いそうだけどな。心が弱ぇ奴ほど“神”って言葉にあやかりやがらぁ」

「神に見捨てられた天愚だからこそ、より魅力的な言葉だったのだろうの」

「はっ! 神を超えるどころか、こんな小娘に負けるような奴だ。どっちにしろ失敗してただろうぜ」


 自分が倒した妖を思い出し、小さな嘲笑を一つ零して。南はビールを喉に流し込む。

 それに合わせて猫又もまた、缶ビールを煽った。

 そして、手すりの上に缶を置いた時、不意に鳴るは鈴の音。猫又の右手首に付けてある首輪の小さな鈴が、ちりんと鳴った。


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