金色 -テガカリ- 弐
「ってな訳で、っと……」
「む? 南、寝室はあっちだの?」
筋肉痛に耐えながらひょこひょこと歩く南。
寝室に向かうのかと思えばキッチンの冷蔵庫を開けて、中から銀色のアルコール缶を取り出すのであった。
「ちょっ、南さん、今から飲むんですか!?」
「おう、質の良い睡眠には適度なアルコールってな」
南はニカッと八重歯を見せながら笑い、和歌は半ば呆れ顔。
「猫又サン、少し付き合えよ。外行こうぜ」
「外?」
「あぁ、ついでに一服もな」
いつもと変わらない、飾らない南の笑い顔。
しかし、何か。南の眼が何か違うのを猫又は察して。
「……ま、よかろう。寝酒も悪くないの」
部屋の吐き出し窓から外に出て、二人はバルコニーの手すりに寄り掛かった。
空は晴れて星が見えるも、薄っすらと明るみを帯びてきている。
普段ならば今から一日が始まる時間。だが、今日だけは。猫又達はようやく一日が終わったのだ。
「ほらよ、ビール」
「ん」
南からビールを受け取り、缶の口を開ける二つの音が重なった。
そして、色々ありすぎた一日の疲れを一緒に流し込むように、小気味よく喉を鳴らすのであった。
「っかー、沁みるぅ」
「うむ。疲れた体にはこれだのぅ」
一気に缶の半分程を飲んで、二人は大きく息を吐いてから。
「げぇぇぇっぷ」
「げっふぁぁぁぁ」
そして、お約束のゲップ。
これでも一応ヒロインです。
「それで、わざわざ外に出てまで話したい事はなんだの?」
「猫又サン的には、あまり誰かに聞かれたくない話だろうからな」
「その前振りを聞くに、何やら訳ありな話題っぽいのぅ」
「……」
南は正面を向いたまま視線だけを左隣の猫又へとやって。
少しの間を空けてから、ゆっくりと南は言葉を発した。
「あたしが戦った天愚から、金色の妖狐って言葉が出てきた」
「――ッ!」
ざわり、と。
猫又の髪が軽く逆立ち、見開いた瞳は黄色く光る。
鋭い妖気———いや、殺気。抑えきれない感情の高ぶり。南が知っている猫又とは明らかに異質な雰囲気。
突き刺すようなあまりに鋭い殺気に、自分に向けられている訳でもないのに南は全身の肌がひり付く。
「妖気を抑えてくれよ。古々乃木先輩が起きちまう」
「……そうだの。すまん」
いつもと違う雰囲気を纏う猫又へ、視線だけを向けて一瞥して。
南は缶を口に付け、一口だけビールを飲んだ。
「猫又サンが追ってるのと同一人物かは知らねぇ。けど、まず先にアンタに教えるべきだと思ってよ」
先ほどの横田との電話の最後に、後で今回の件を詳しく話すよう言われた。
そうなると当然、この事も報告しなければならなくなる。天愚が事件を起こした切っ掛けを与えた人物なのだ。そんな重要な事を隠す訳にはいかない。
それでも南は猫又に協力すると約束した手前がある。だから、上司への報告よりも猫又へ先に教えるのが筋だと、南は外に誘ったのだった。




