口咽 -ショウメツ- 伍
「きゃっ!?」
その質、その量、その密度。全てにおいて一級の払い屋と遜色ない霊力。
いや、総量と爆発力という点に限っては、それに留まるものではない。
あまりの発光に和歌が短い悲鳴を上げ、光を手で遮ろうとすると。
一瞬の激光と大量の霊気は嘘のように消え、供助はソファの上でぐったりとしていた。
「あれ……? 眩しくなくなってる?」
和歌が瞼を開いた時には光は収まり、部屋は薄暗く夜の静寂を取り戻していた。
「供助君……供助君は!?」
台風が過ぎ去った後みたいな静けさ。小さく息を飲み、思うのは供助の安否。
和歌は食い入るように二人へと問い掛ける。
猫又と南。二人がソファに横たわる供助の容態を診て、南がゆっくりと息を吐いてから口を開いた。
「妖毒の痣が消えてる。成功だ」
小さく肩を竦ませ、溜飲が下がったと。南は微笑を作って見せた。
「よ、よかったぁ……」
幼馴染が死の淵から助かり、ずっと張っていた緊張の糸がようやっと解けて。
和歌はその場にぺたんと座り込んだ。
安心したのは太一と祥太郎も同じで、その顔には明らかな安堵の色が見て取れる。
「呼吸も落ち着きを取り戻しておる。ふぅ……山場は越えたの」
「毒さえどうにかなりゃあ、あとは大丈夫だ。古々乃木先輩なら寝てりゃすぐ回復すんだろ」
ずっと背中に伸し掛かっていた重い何かがすり落ちて、猫又も思わず深い吐息を漏らした。
南も同様で、張り詰めていた空気と緊張が解け、安心と同時にドッと疲労が来た。
「……猫、又」
「ッ!? 供助、もう気が付いたのかの!?」
霊力も全て出し切り、しかも衰弱した状態で強制的に、だ。
とっくに体力は限界で、普通ならばしばらくは目は覚めない筈なのに。供助はものの数分で意識を取り戻したのだ。
あまりに驚異的なタフさに、猫又も驚きを隠せない。
「俺ぁ、いったい……」
「お前はケガレガミの毒にやられてな、さっきまで死にかけておった」
「だから、か……こんなにだりぃのは」
「毒は消えた、大人しく寝とれ。死にかけではなくなっても、生きかけなのだからの」
「あ、ぁ……そうする、わ」
少しの会話をすると、供助は再び眠りについた。
当然だろう。数十秒とはいえ意識を取り戻しただけでも驚愕なのに。
しかし、今ので供助のスタミナの多さと高い耐久力を再確認させられた。
『あのー、もしもし? お喜びのところ申し訳ないんだけど……なにか忘れてなーい?』
和歌が持っていたスマホから、少し悲しそうな中年男性の声が聞こえてきた。
そこで和歌はハッと、テレビ電話にしていたのを忘れ、スマホのカメラをずっと床に向けていたのに気付いたのだった。




