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      口咽 -ショウメツ- 肆

「あれ? テレビ電話に切り替えたけど、向こうの画面が暗いまま……」

『あーごめんね。時間が時間だから、部屋の明かりを消してるのよ。そっちの映像は見えてるから大丈夫』


 和歌が真っ暗の画面に心配していると、横田は軽い口調で気にしなくていいと返す。


「んじゃ始めますよ、横田さん。いいですか?」

『ばっちり見えてる。オッケーよ』


 南が確認すると、横田から出されるGOサイン。

 それを聞いて、南は供助の肩を掴んで小さく揺らした。


「古々乃木先輩、起きてください」

「……ん、あ、ぁ……みな、み?」


 体を二、三回揺らされて、供助は薄っすらと瞼を開いた。

 声は弱々しく苦しそう。少し話すだけでも辛そうだった。


「古々乃木先輩、これを飲んで欲しいッス」

「てん、ぐ、は、どうし……いや、ケガレ、ガミ、は……」

「すんません、ちょっと手こずってまして。奴等を倒す為に、これを飲んでもらっていいッスか?」


 毒の症状の一つである、記憶の混濁。それがまだ続いていて、供助はまだケガレガミや天愚と戦っていると思っているのだろう。

 そんな供助の様子に話を合わせて、南は供助の口元へ畜霊石を運ぶ。そして、供助の口が緩んだのを見計らって。


「ん、ぐ……っ!」

「そのまま飲み込んでください!」


 供助が吐き出さないように手で口を押さえ、多少乱暴でも構わないと力を込める。

 突然、口に入れられた異物に苦しむ供助に心を痛ませながらも、南は畜霊石を飲み込むまで手を離さない。

 そして、数秒後。供助の喉仏が動いたのを見て、畜霊石が飲み込まれたのを確認する。


「古々乃木先輩、少し……ほんの少しでいいッス。霊気を……!」

「はぁ、は、ぁ……れい、き……?」

「そッス! キツイのは解ってまス! けど、少しでいいッスから!」


 ぼやけた視界に映るのは、必死に訴えてくる南の顔。

 朦朧とした意識でありながら、何かを察したのは持ち前の勘の良さか。

 供助は体に鞭を打って霊気を絞り出す。


「ぅ、ぐ……ぐ……っ!」


 普段の供助とは比べ物にならない程、微量で弱々しい霊気。

 しかし、必要だった条件には十分。


「ぐうぅぅぅぅぅぅぅぅうっ!」


 小さな石に圧縮されていた膨大な霊力が、供助の霊気を引鉄に解き放たれる。


「す、っげ!」

「ぬぅ……!?」


 それはまるで、決壊したダムのよう。凄まじい量の霊力が供助から溢れ出す。

 ついさっきまでの衰弱していた人間とは思えぬ量と密度。

 そのあまりの霊気に、近くにいた南と猫又からは驚きの声が漏れる。


「ぐあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああっ!!」


 それは悲鳴か、咆哮か。激しい霊力の放出に耐えながら供助が叫ぶ。

 高密度の霊気は光を放ち、一室を眩く照らす。

 上手くいけば生き、失敗すれば死ぬ。頼みの綱は供助の霊力と、それに耐えうる体と精神。

 和歌達は眩しくも目は逸らさず、その様子を固唾を飲んで見守るしかない。

 体感で五分、または十分……見守る者の時間は長く感じる。しかし、実時間は短く。決着はたった三十秒でついた。


「あああああああぁぁぁぁぁあッッ!!」


 ソファの上で体を反らし、絶叫と共に光が一層強くなったと思った瞬間。

 供助から、とてつもない霊気が津波となって押し寄せる。


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