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第九十九話 口咽 -ショウメツ- 壱

「くっ、神社で書物を見た時、全てに目を通していたなら……毒の存在に気付けて未然に防げたというのに……!」

「何を言っても今さらだぜ、猫又サン。今は古々乃木先輩が助かる事を祈るしかねぇよ」

「解っておる。解っておるが……いつだって私は、何かが起きてから過去を悔やんでしまう」

「そりゃそうさ。後に悔やむから“後悔”って言葉なんだ。誰も先の事を悔やむ奴ぁいねぇ」


 南は床にどっかりと胡坐(あぐら)をかいて座り、ソファで寝ている供助を見つめる。


「皆は寝ろ。横田さんの部下が来るまではあたしが診てる」

「そんな、私が診てますから、南さんこそ休んでください! 妖怪と戦って疲れているんですから!」

「いいから、お前らは寝ろ。何か出来る訳でもねぇが、一応払い屋のあたしが診ていた方がいいだろ」

「でも……」

「古々乃木先輩を解毒する時になったら起こすからよ。約束する」


 南は背を向けたまま、和歌へと答えていく。その背中は悲しそうで、辛そうで、悔しそうで。

 天愚が毒を仕込んだ武器を使っていた。ならば、ケガレガミも毒を持っていたと推測する事も可能だった。

 なのに気付かず、考えもしないで、自分の事だけで精一杯で。天愚を倒して満足していた自分自身を、南は許せなかった。


「ここは南に任せようて。和歌達はしばし休め」

「……わかりました」


 猫又は南の心中を察し、空気を読んで。和歌達を寝室に向かうよう促す。

 和歌は渋々といった様子だったが、猫又に小さく頷いた。


「南さん、何かあったら声掛けてください。って言っても、手伝える事はあんま無いと思いますけど……」

「眠くなったらいつでも僕が代わりますから。南さんも無理しないで」

「おう、あんがとな。太一、祥太郎」


 背中越しに片手をひらひらさせて、南は二人に返す。

 三人が広間から出ていったのを見送り、猫又は南へと視線を戻した。


「そう自分を責めるな。今回はなるべくしてなった。南だけのせいではないの」

「……それは自分に言ってんのかい?」

「かも、しれんのぅ」


 南の返答に猫又は。小さく肩を竦ませ、自嘲を含めて小さく息を漏らした。

 払い屋という仕事をしている以上、危険に見舞わられる事は覚悟している。供助もそれを理解した上で払い屋を続けている。

 誰の責任でもない。それは解っている。理解している。それでも、二人は自分を許せない。

 仕方ない。しょうがない。でも、理解は出来ても、納得出来ないものがある。わかりました、そうですね。で済まない事があるのだ。


「……あたしが古々乃木先輩ぐらいの霊力を持っていれば、この毒を消してやれたのかな」


 南は呟いて己の右手を見やる。軽く上げただけで、今も筋肉痛で小さく震える腕。

 天愚との戦闘の後で、無理をしたのもあって霊力もまだ回復していない。そんな自分の霊力の少なさに、情けなさを感じずにはいられなかった。


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