解毒 -ヒトリミ- 陸
猫又への返答。その方法と不穏な言葉に、その場に居た全員の表情が険しくなる。
助けようとしているのに、死なせる。意味が解らない。だが、横田の言う事に理由があるのは理解している。
猫又は冷静を保ち、横田の話の続きを待つ。
『正しくは仮死状態……臨死体験をしてもらう。人は死を経験すると五感が研ぎ澄まされ、第六感……つまり霊感を持つという実例がある』
「それって、あたしが霊感に目覚めたのと……」
『そ。南ちゃんが霊感を持つ切っ掛けになったのと同じ。その方法を使って強制的に霊能力者を作り上げる祓い屋がいるが……まぁ、その話は置いておこう』
「けど、それをやれば古々乃木先輩は助かるかもしれないんですよね!?」
『ただ、命に係り、命を懸けた方法だ。助かっても何らかの後遺症が残る可能性がある』
「このままじゃ古々乃木先輩は死んじまうってンなら……あたし達に選択肢は無いですよ」
無情にも時は進み、このままでは供助は死を待つしかない。
ならば、迷う事も悩む事も必要無い。危険でもその方法に賭けるしかないのだから。
『今向かわせている部下がその方法を知っている。猫又ちゃん達はそこで待機してて』
「その外法とやらを行うのに準備は要らんのか? 必要な物があれば可能な限り揃えておくが」
『その必要は無いよ。外法そのものは大して難しいものじゃないからね。向かってる部下が妖毒治療の知識を持ってるってのもあるけど』
「では、こちらも移動して、こっちに向かっておる部下と落ち合った方が良いのではないか?」
『いや、多少ギリギリだが部下が間に合う時間は残っている。下手に動かさず、少しでも供助君の体力を残しておいて欲しい』
「そうか。しかし、この状況で待つしか出来ぬというのは……歯痒いものだの」
供助は今もなお苦しみ、毒と戦っているのに。
自分達は見ている事しか出来ない。この場に居る全員が同じ気持ちだろう。
供助の額には多くの汗が浮かび、和歌がそれをタオルで拭き取る。
横田の部下が到着するまで後三時間。何もできないが故に、特に長い三時間になるだろう。
「横田、確認なのだが……その外法で供助を仮死状態にし、その反動で霊感を強めると言っておったが……確率はいくらある?」
『供助君は既に霊感を持っていて、それで再度、霊感を覚醒させるとなると……高く見積もっても、三割』
「……なんとも微妙な数字だの」
『だが、霊感が覚醒しなくても助かる可能性もある』
「どういう事だの?」
『供助君を蝕んでいる毒は、霊力に反応して体内から蝕んでいくものだ。供助君が外法によって仮死状態になれば……』
「そうか、その間は完全に霊力が無くなる。この妖毒は被毒者の霊力があって初めて毒として成り立つ。しかし、浸食する為に必要な霊力が絶たれた毒は、自身を維持出来なくなって消えるしかない」
『そう、昔の感染病と同じ。感染先が無くなれば、あとは自滅しかない』
「それを含めた上での三割、かの?」
「……そうだね」
それでも危険な賭けであるのは変わりない。出来ればこのような方法は避けたいのが本音。
しかし、それに頼らざるを得ない状況。あとは供助の運に祈るしかない。




