解毒 -ヒトリミ- 伍
「……どういう意味だの、横田」
『供助君に血縁者はいない。いないんだ」
「何を言っておる!? 供助には祖父母がおるだろう!? 横田も住所を知っておると言ったではないか!」
『祖父母と戸籍上は親戚でも、血の繋がりは無い。供助君は……孤児だったんだよ』
「孤児? 供助が……?」
横田から明かされる真実。供助の過去。
その場に居た全員が、その事実に驚愕する。
誰も知らなかった事実。誰にも言わなかった真実。
『供助君はまだ赤子の時に、孤児院に捨てられていたらしい。彼が五歳になった頃、生前の両親が引き取って養子にしたんだ』
「では、解毒に必要な血は……」
『探しようがない』
供助の本当の親はどこに居るかも、生きているかさえも解らない。
つまり、助かる為の血を入手する方法は――存在しない。
「横田が解毒方法を言い渋ったのは、そういう意味であったか……!」
猫又は横田が言い渋った理由に納得し、それを言わせるよう促した自分を恨んだ。
何より人の過去を、特に悲しく不幸な生い立ちを。第三者が公言していい事ではないのだから。
解毒方法はある。しかし、その方法は供助を助けれない。
肉親の血は入手不可。霊気放出による体内からの解毒も、供助の容態を見るに無理なのは明白。
供助の死。それが明白となり、受け入れたくない現実が迫る。
『供助君が助かる方法は――――』
「まだだッ!」
スマートフォンから発せられた、横田の絶望を掻き消すように。
大きく声を上げたのは、南だった。
「こんな……こんなくだらねぇ死に方をする訳ねぇだろ! 古々乃木先輩が!」
南はソファで寝ている供助の肩を揺らし、涙を堪えて必死に話しかける。
「古々乃木先輩、起きるッス! 起きて霊気を練るんスよ! んなクソ雑魚の毒なんざ、いつもの馬鹿力で吹っ飛ばしてくださいよ!」
堪えているのに、耐えているのに。なのに目頭が熱い。視界が滲む。
年下でも憧れた先輩なんだから。いつか追い付く目標なんだから。こんな所で死なないでくれと。
南はポロポロと涙を零して、意識の無い供助へと訴えかける。
「あたしは、あたしはまだ何一つ返せてねぇんだ! なぁ、古々乃木先輩ッ! なぁ目ェ開けてくれよ!」
「やめるんだの、南!」
「南さん、落ち着いて!」
近くに居た南と和歌が抑制に入り、南を供助から引き離す。
南はその場に座り込み、その肩を掴む猫又と和歌の手には小さな震えを感じていた。、
「今日もまた借りを作って、助けられて……あたし、は……まだ何も、返せてねぇんだよ……何も返せねぇのかよぉ……」
その場に項垂れる南の姿は、悲痛な面持ちで悄然していた。
いつもの鋭い眼光も、強気な言葉も、今は消えて。彼女は右手で顔を覆い隠し、静かに涙を流すのだった。
『まだ一つ、かなり危険だが……供助君が助かるかもしれない方法がある』
そこに僅かな希望を見せたのは、横田の声。
全員の視線がスマートフォンへと集められた。
『祓い屋の間で行われている方法でね。霊感が無い者を祓い屋に育成する際、強制的に霊感を覚醒させる外法が存在する』
「外法とな? その方法は?」
『一度、死んでもらう』




