解毒 -ヒトリミ- 肆
『……方法は二つ。一つは力技だ。体にある毒を膨大な霊気で体内から掻き消す方法。今回のは普通の毒ではなく妖毒だ。体内にある毒の妖気を消してしまえば、毒も一緒に消える』
「だが、今の供助では霊気を放つ事など……」
『これは毒に侵された直後なら有効な手だが、毒が回って衰弱してからでは難しい。この妖毒が遅効性なのも毒の存在を気付きにくくさせ、被毒者が霊気放出による解毒が出来なくなるまで衰弱させる為だろう』
「解毒方法は容易でも、解毒自体を簡単にはさせんか……ならば、もう一つは?」
『肉親の血を輸血する』
「輸血……それだけかの?」
『それだけだ。この毒は被毒した者の霊気を蝕むものだが、毒が体内に入った時にその者の霊気の波長を覚え、抵抗する力を奪っていく毒でね』
「そうか! 普通の人でも霊感が無くとも、僅かに霊気を持つ。そこに別の波長を持つ血液が体内に入れば……」
『一時的に被毒者の霊気の波長が乱れ、毒は霊気を蝕む事が出来なくなり、あとは自然に消えていく。』
「それならば、ここにいる太一達の誰かの血でも可能ではないかの?」
『いや、肉親や血縁者だから意味がある。血が近いからこそ波長が似て、毒が波長を覚えられなくなるからね』
しかし、だ。解毒方法が分かっても、問題は解決していない。
その問題に気付いていた和歌が、猫又と横田の会話を遮った。
「ちょっと待ってください! 肉親の血を輸血って言っても、供助君の両親はもう……!」
そう、他界している。供助が小学校の頃に、表向きは交通事故として。
数年前にすでに、妖の手によって喰い殺されている。
それじゃあ供助君は……と、和歌が絶望しかけた時。猫又がそれを断った。
「何を言っておる、和歌。なにも肉親というのは父母だけではないの」
「えっ?」
「居るであろう、供助には。祖父母が」
文化祭の一件で供助が一週間の停学になった時、祖父母と電話をしていたのを猫又は覚えていた。
肉親の血でいいのなら、祖父母も十分に条件に合う。両親ほどではないが、それでも血は近しいものだ、
「祖父母の血でも十分に解毒が可能だろうの」
「でも、供助君の祖父母がどこに住んでるかが解らないと……」
「横田ならば、供助の祖父母の住所を把握しておるのではないか?」
和歌に答えながら、猫又はちらりとテーブルのスマホへ視線を向ける。
供助の上司なら、いざという時の連絡先を控えている筈だ。
『確かに知っている』
「であれば話は早いの。祖父母に連絡を取って血を分けてもらい、横田の部下に回収させる。お互いに移動して落ち合うようにすれば、解毒に間に合う可能性がある」
横田が所属する払い屋の協会は、全国に支部がある。
祖父母の近くにいる部下に頼めば時間の短縮でき、供助が助かる確率も上がる。
「横田、すまんが部下に頼んで……」
『無理だ』
時間は少ないが、希望が見えた――筈だったのに。
猫又の話をわざと遮った横田から続く、その言葉は。
『この方法で供助君を解毒するのは、無理なんだ』
希望を掻き消すものだった。




