解毒 -ヒトリミ- 弐
『猫又ちゃんの言う通り、一回落ち着こう。供助君の容態は危ないが、即効性じゃなく遅効性の毒ならばまだ幾らかは時間がある』
「って言ってもよ、横田さん……くっそ、何か他に手はねぇのか!?」
『そのケガレガミに関する資料があればね……元々が土地神なら、神位に憑かせた理由や経緯が記された資料が残されてる筈なんだけど』
「……あっ」
資料という言葉を聞いて、僅かに顎の角度を高くする南。
「資料、そうだ、資料だよ!」
「あの神社にあった書物かの?」
「そう! あれになら毒に関して何か載ってるかもしんねぇ!」
「ここから神社まで片道二十分ほど。解毒が出来る払い屋を待つよりは望みはあるか……」
「何言ってんだ、猫又サン。忘れちまったのかよ?」
「何をだの?」
「アンタ、和歌に書物を何ページかスマホで写真を撮らせてたじゃねぇか」
「……あーっ! そういえばそうだったの!」
素っ頓狂な声を出して。猫又は念の為にと写真を撮らせていたのを思い出す。
あの時はなんとなく、一応で撮らせていたのに、まさかこんな形で活きるとは。
「って訳で和歌、お前のスマホを早く出せ! あと写真も!」
「は、はい! ちょっと待ってください!」
「けど、運良く写真を撮ったページに毒の事が書いてりゃいいんだけどな」
「あのー、南さん。実は……」
「まさか撮れてなかったのか!?」
「いえ、そうじゃなくて。私、全ページ撮っておいたんですけど。あとで必要になるかな、と思って」
そう言いながら、和歌はスマホの画面を南へと向ける。
それを一度見てから、隣の猫又と目が合って数秒。
「ぃよーくやったぁ、和歌ぁ!」
「さすが委員長だの! 細かな気が利くではないか!」
「きゃっ! ちょ、二人でそんな頭を撫でないでください!」
南と猫又の二人に、わしゃわしゃと撫でられる和歌。
まさかのファインプレーに思わず褒めざるを得なかった。
「横田さん、ケガレガミに関する資料があった! そっちに送る!」
『え、なに? もう持ってるの? 南ちゃん、ちょーっと都合良すぎない?』
「都合が良いんじゃなくて、日頃の行いが良かったんですよ。和歌、あたしのスマホに撮った写真を全部送ってくれ」
「はい、今送ります」
南はテーブルに置いていた自分のスマホを手に取り、和歌から送られてきた写真を横田へと転送する。
「所々が擦れて読めない部分がありますけど、読めますかね?」
『ウチの解析能力と培った知識を信じなさいって。これくらいお茶の子さいさいよ』
「お茶の子さいさいって言う人、マジでいるんですね……」
今では死語に近い言葉ではなかろうか。
南はデータを送り終えたスマホをテーブルに戻し、久々に聞いた言葉に歳の差を感じざるを得ない。




