牙跡 -コンダク- 陸
「南、横田の連絡先は知っておるかの!?」
「ああ、知ってる。けど、こんな時間だ。出てくれりゃいいが」
「出るまで鳴らせ! 供助の命が掛かっておる!」
「わかってんよ。頼むぞぉ、こんな時に海外出張で繋がらないとかやめてくれよぉ……!」
南はスマホをポケットから取り出し、横田へ電話を掛ける。
コール音が鳴った事に安心し、次は横田が電話に出るのを祈る。
士官はもう深夜。スマホをサイレンとモードにして寝ていたら、電話に気付いてくれないだろう。
そこはもう運任せ。神頼み。コール音が五回目に入った時、鳴っていたコール音が止まった。
『もしもーし』
「よっしゃ、出たっ!」
『え、なに? なんでそんな喜んでんの?』
予想していなかった電話口先の反応に、横田の声は狼狽えていた。
「南、私に代われ」
「あいよ」
そんな横田を気にも留めず、南は即座に猫又にスマホを渡す。
「もしもし、横田か? 猫又だの」
『え、猫又ちゃん? どったのよ、こんな夜中に』
「すまんが、急ぎで真面目な話だの」
『……何かあったのかい?』
「経緯は省く。供助が妖怪に噛まれ、毒に侵された。治療技術を持つ払い屋を手配して欲しい」
『その言い方だと、普通の毒ではなく妖毒の類か』
「そうだの。噛まれたのは大体、一時間ほど前。遅効性だったらしく、今になって急に症状が現れた」
『今から解毒が可能な部下に連絡をする。電話を切らずに、少しだけ待っててくれ』
「うむ、わかったの」
猫又は話しながら供助へと目を向けると、着替えが終わってソファに横たわっている。
今も息は荒く、半袖から見える腕には紫色の痣が少しずつ広がっていた。
「猫又サン、横田さんはなんて?」
「今から解毒が出来る部下に連絡するとから、このまま電話を切らずに待っとれ。だそうだの」
「近くに居てすぐに来れる払い屋が居りゃあいいんだけどな……」
「そこは運に頼る他ないだろうの」
『もしもし? 猫又ちゃん、聞こえる?』
「む?」
一分も待たずして。早くもスマホから横田の声が聞こえて来た。
「聞こえておるの」
『そこに南ちゃんも居るよね? 一緒に話を聞いて欲しいから、スピーカーをオンにしてもらえる?』
「わかった。南、すまんがスピーカーをオンにして周りにも聞こえるようにしてほしいの」
猫又はそう言って、持っていたスマホを南に返す。
スマホを持っていない猫又は通話くらいは出来るが、細かな操作は解らない。
「横田さん、スピーカーにしたぜ」
『お、南ちゃんの声。喋って大丈夫そうね』
南はスピーカーに設定したスマホを、近くのテーブルに置いた。




