牙跡 -コンダク- 肆
◇ ◇ ◇
廊下を騒がしく足音を鳴らし、リビングへと急ぐ三人。
和歌を先頭に、三人が広間に慌ただしく入って来た。
真っ先に目に入った光景は、ソファに寝ている供助に声を掛けている太一と祥太郎の姿。
「祥太郎、何が起きた!?」
南は駆け寄り、祥太郎に状況を問う。
風呂上がりで寝巻のスウェット姿。しかし、髪がまだ濡れたまま。それだけ急いで出て来たのだ。
「南さん! 供助君の様子がおかしいんです……!」
「古々乃木先輩、あたしの声が聞こえるっスか!? 古々乃木先輩!?」
南も供助の名を呼ぶも、返事は無い。
苦しそうな表情をさせ、額にはいくつもの汗が浮かんでいる。異常が起きているのは明白だ。
そんな供助を見ても焦らず、猫又は冷静に事の確認をする。
「太一、供助はいつからこの状態に?」
「気付いたのは本当についさっきです。供助は軽く寝るって言って横になってたんですけど、なんか様子が変で……猫又さん達が風呂に行った時はいつも通りだったんですけど」
「戦闘を行った事による極度の疲労……とは思えんの」
猫又はソファへと近づき、供助の額に手をやる。
「かなり熱いの。和歌、体温計を持っておらんか?」
「あります! 念の為に常備薬と一緒に持ってきてました!」
「すまんが貸してくれ」
「はい! ちょっと待っててください!」
和歌は自分の荷物が置いてある寝室へと走っていく。
「呼吸もかなり荒くなっておる……祥太郎、洗面器にお湯を溜めてくれ。汗を拭くタオルを頼む」
「わかりました!」
「太一は寝床から毛布と、供助の着替えを」
「うっす!」
「南、私達が買っておいたスポーツドリンクがあったろう。持ってきてくれ」
「おう」
猫又は供助の状態を見て、各自に素早く指示を出す。
パッと見では風邪にも似た症状。だが、ほんの十分程前は普通だったのに、こうも急変するのは異常だ。
妖と戦った直後だと考えれば、普通の病気ではない事を疑うべきだろう。
「猫又サン、持ってきたぜ」
「コップに注いでくれるかの。供助に飲ませる」
「あいよ」
南はペットボトルのキャップを空けて、スポーツドリンクをコップに入れていく。
熱が出ているからか、供助はかなり発汗していて、来ているTシャツが目に見えて濡れているのが分かる。
体調不良の原因よりもまず、脱水症状を起こさない様にするのが先決である。
「供助、起きろ。供助」
猫又は供助の頬を軽く叩き、強引に起こす。
声掛けで起きないのならば、多少の乱暴も致し方ない。
「ん……ぁ、あ」
「供助、私が分かるかの?」
「猫、又……? 俺ぁ、一体……」
薄らと目を開け、か細い声で話す供助。
声を出す度に息苦しそうに肩が上がり下がりしている。




