正体 -メオト- 陸
「って、ちょっと待って。じゃあ結花ちゃ……結花様のお姉さんの子供が行方不明っていうのは……」
「ごめんね、和歌ちゃん。あれはその……嘘、なの」
騙していた事に対し、結花はすごく申し訳なさそうに。
答えながら視線を落として、小さく頭を下げた。
「い、いえ、いいんです! ただ、攫われていた子供達は全員ちゃんといるのかな……って思っただけなんです」
「ふふ、やっぱり優しいのね、和歌ちゃんは。ううん、和歌ちゃんだけじゃない。ここにいる皆は、心が温かい」
自分達が騙された事に対してよりも、子供を優先して心配し気遣う優しさ。
人の優しさと温かさ。自分たちが守るべき者の光を見て、結花は微笑んだ。
「これで俺達への警戒は解けたか?」
「まぁな。神様相手に拳を振らずに済んで良かったよ。バチが当たったら怖ぇ」
「はは、俺達はまだ新米だ。人に神罰を下せる程、偉くも強くもないよ」
供助だけじゃない。猫又も、南も。冗談を交わしている最中も、ずっと緊張の糸を張っていた。
しかし、ここでようやく、払い屋組の三人は肩の力を抜く事が出来たのだった。
「すまんかったの、和歌。話の間、ずっと肩を貸りてしまって」
「いえ、これくらい気にしないでください。でも、本当に大丈夫ですか?」
「なに、少し休めば歩く事ぐらいは出来る」
無理して立っていた猫又も、汚れを気にせず地面に座り込む。
何かあった時の為に構えていたが、その心配も消えた。なら、ゆっくり休みたかった。
「あ、そうだ。和歌ちゃん」
「はい。なんでしょうか? 結花様」
「様じゃなくて、ちゃん付けでいいよ」
「えぇ!? そそ、そんな! 神様にちゃん付けだなんて!」
「お願い。私達にとって皆は恩人で、友達だから」
ふふっと、結花は笑い声を漏らして。
ここに居る人達は、人間である結花と悠一として接して、助けてくれた。
神様だから。人間だから。そんなのは関係無く、一個人として。その関係のままでいたかった。
「……うん、わかった。結花ちゃん」
「ありがとう、和歌ちゃん!」
和歌は少し戸惑いながらも、はにかんで。
そんな二人の様子を見ながら、太一は悠一の肩に腕を回した。
「とか言ってるけど、じゃあ俺は君付けて呼んだ方がいいよな? 悠一くん」
「やめろ、太一。面白がってるだろ?」
「いや、意外と真面目に聞いてる。俺は友達として、お前の意思を尊重したい」
「……タメ口でいい。君も必要ない」
「オッケー、悠一くん」
「おい」
「あっははは!」
ここに居るのは、この街を想う住民とその友人。それでいい。
種族間の違いなど些細な事なのだから。お互いに友人と認めた仲ならば、そんな事は関係の無い話だった。
「他に聞きたい事があるかもしれないが、一旦ここで話は終わりだ」
「なんだよ、やけに急ぐな」
「供助達も休まなきゃいけないし、何より子供達を早く返さないと」
「そうだな。親御さん達が今も心配してんだろうし」
首に回されていた太一の腕を引き剥がし、悠一は気を失っている子供達を見やる。
「目立った大きな外傷は無いが、天愚がケガレガミに血を与えていたと言っていた。顔色や呼吸に問題は無いが、病院で診てもらった方が良いの」
猫又も子供達へと視線をやり、少し心配そうにする。
それに数日もの間、親元から引き離されていたのだ。肉体だけでなく、精神も衰弱しているだろう。




