正体 -メオト- 肆
「だけど、何とかしようと動いたはいいが、なかなか原因の足取りを掴めないでいた」
「……この山に張っていた結界が原因、かの?」
「そうだ。俺と結花も、ここに張ってあった結界には中に入る事で初めて気付いた。情けない話だよ」
「確かに天愚の結界は巧妙であった。新米とはいえ神様であろう? 人除けの効果があったとは言え、気配を感じる事はなかったのかの?」
「猫又さんも感じたでしょう? 子供が攫われた時、街のほぼ全域に薄く残された妖気の気配を。あれのせいで上手く誤魔化されてしまっていたんだ」
「ああ、そういえばそうだったの。中途半端に妖気を感じるせいで、相対的に人除けの効果がさらに活きた訳だの。結界を探し難くなるか」
二つの要素が噛みあえば見付けるのも難しいか、と納得する。
現に猫又の鼻も上手く機能せず、自分達もこの工事現場に来なければ結界に気付けなかった。
「子供を攫う理由も、犯人の妖怪の目的も解らなかったからね。祭りを行っている神社にも子供が多く来る。だから、人間以外を侵入させないという神社の結界を強めていて、そっちに力の殆どを割いてしまってたんだ」
「それで二人が外で使える力には限度があった、か」
「そう。そのせいで制限が掛かって、今日の今日まで解決には至らなかった」
神社の面積はかなりのものだ。猫又も最初に見た時に驚いたのを覚えている。
あの広い範囲を常に、しかもさらに強力にした結界を、だ。
加えて行方不明の子供を探しつつ、神隠しの犯人を特定し、さらに排除する。同時に行うにしてはやる事が多い。
それで二人を攻めるのは酷か、と。猫又は呟く。
「ま、結果的に神社の結界を強めておいて正解だったぜ、お二人さん。さっきも言ったが、天愚の狙いは新神だったンだからよ」
南はそう言って、筋肉痛に耐えられず、どっかりと地面に座った。
それを聞いて、結花が南へと向く。
「南さん、どういう事ですか?」
「あたしが倒した妖怪が言ってたんだよ。ケガレガミの封印を解いて従えさせてたのは、次の新神として迎え入れさせる為だってな。そんで自分がこの地を支配したかったんだとよ」
「ケガレガミを!? そんな事をしたら、この街は……」
「不浄の溜まり場になって、街のあちこちで不幸や怪異現象が起きて住めたモンじゃなくなるな」
「それに支配って……あのケガレガミは知能と理性を著しく欠如していたわ。あんなのに土地神の座を与えても、制御するなんて無理よ」
「だから、天愚は封印明けで弱まっていたケガレガミを狙い、道具を使って力を抑えつつ従わせていたんだ。自分の思い通りに出来るレベルまで落としてな。ま、あたしがその道具をブッ壊しちまったけど」
はっ、と鼻を鳴らし、南は笑う。
数珠を破壊された時の、情けない天愚の顔を思い出して。
「あん? じゃあケガレガミが急に強くなったの、アレお前のせいか、南」
「あっははは……まぁ、どっちにしろ数珠は壊さないといけなかったんでスし、ケガレガミも倒せたんで良かったじゃないスか、古々乃木先輩」
「数珠付けたまま倒しときゃ、もっと楽だったのによ。お陰で面倒臭ぇ戦いだった」
「こっちも死闘だったんスから、一人で頑張った後輩を少しは労ってくださいよぉ! 古々乃木せんぱぁい!」
「一人でいいっつったのはお前だろうが。こっちだって霊力を使い過ぎて疲れてんだよ」
「古々乃木先輩は疲れ知らずの底無し霊力お化けじゃないスか。現に一人だけ立って話せるくらい元気ですし」
「悪かったな、南。背中を摩って労ってやるよ」
「ひぃぃぃぃぃ! スンマセン、冗談ッス! いつもだったら歓迎だけど、今だけは勘弁ッス!」
アイアンクローのような仕草をする供助を見て、尻を突いたまま後ずさる南。
全身筋肉痛の状態で背中を触られたら泣いてしまう。しかも供助の事だ、摩ると言って力いっぱい押してくるだろう。




