正体 -メオト- 参
「俺達を守ってくれてた時の不思議な力で、普通じゃないってのは分かってたけど……」
太一はまだにわかには信じられないと、まじまじと悠一と結花を交互に見やる。
「どう見ても私達と同じ人にしか……」
「そこはまぁ、神様だから。いくらでも化けれるさ。猫又さんもそうだろ?」
「あ、確かに」
悠一に言われ、猫又の方を見る太一。
今は猫耳と二本の尻尾があるが、人前で行動する時は妖気で上手く隠して見えないようにしている。
その時の猫又も、どこをどう見ても人間にしか見えない。
「なにが同じだ。質のレベルが全くの別物だの。匂い、雰囲気、仕草に神力の隠秘まで。私はそこまで完璧に人間に化ける事は出来ん」
悠一と結花の変化がステーキだとした、猫又のは少し高いカップラーメン。
それ程に質の差がある。
「ちょっと待て、神様だと?」
ある事を思い出し、南が話に割って入る。
「あたしが倒した妖怪……天愚が言ってたぜ。ここに居た目的は、この街の新神だったってよ」
天愚が企んでいた事。ケガレガミを従えていた理由。
祭りを開催していた神社では今、新しい神様を迎える準備をしている。
そして、目の前には神様だと名乗る者が二人。
「お前等も天愚と同じで、そういうタチか?」
「ふふ、はは」
南の問いに、声を漏らして笑ったのは結花だった。
「あん?」
「私と悠一は逆よ」
「逆だぁ?」
意味がよく理解できない。南は眉を中央に寄せ、返ってきた言葉をそのまま返す。
「私達は今この地を守ってる神。つまり、去年迎え入れられた新神なの」
「は? 私達って……両方? 二人共か?」
「そうよ。私と悠一」
「いや、普通は神社の神様って一人じゃねぇのか?」
どちらかではなく、どちらも。
予想してなかった返答に南は混乱する。
「普通は一人だの。しかし、神には夫婦神というのがある」
「さすが猫又さん、博識ですね」
「それで、なぜ私達の前に現れた? それもこの地に祀られている神様が、の」
姿を変え、素性を隠し、人間と妖怪に助けを求めた。見習いとはいえ神様が、だ。
結果的に天愚の企てから子供達を助ける事は出来たが、戦闘を行った三人はボロボロ。
納得のいく理由を知りたかった。
「今回の神隠し事件……俺達は少し前から街の異変に気付いてね。本来なら土地神と言えど、おいそれと人間に手を貸す事は出来ない。けど、原因が人外の手によるものだと分かってね」
真相の解明を求める猫又に対し、悠一は目を逸らさずにちゃんと見合って答える。
「知ってるだろ? 俺達は明日で土地神の役を終えてしまう。ゴタゴタを残したままこの地を去りたくなかったんだ」
「土地神として、その役割を果たしたかったと……そういう事かの?」
「そんな大層な理由じゃない。何よりこの街が好きで、子供が居なくなって親が泣くのを見るのも、流れ者が好き勝手するのも。ただ単に耐えられなかっただけだ」
結果的には街は守られた。けど、神としては迂闊な行動ど言える。
もし天愚やケガレガミに殺されていたのなら、今頃この地は穢れに満ちていたのだから。




