第九十六話 正体 -メオト- 壱
「ようやく終わった。しんど……」
両手を腰にやり、項垂れる供助。
ケガレガミは本体と飛び散った肉片を含め、全て霧散して完全に消滅した。
「供助!」
「供助君、大丈夫!?」
太一と祥太郎が駆け寄り、疲れ切った供助を心配する。
「まぁな。お前等も大丈夫か?」
「こっちは守られてただけだからな。何ともない」
「僕達も鈴木さんも、怪我もなくて無事だよ」
仕方ないとはいえ、申し訳なさそうに笑って頭を掻く太一。
祥太郎は走ってズレた眼鏡を指で直して、後ろの猫又の方へと目を向けた。
「猫又さん、怪我や火傷はありませんか!?」
「大丈夫だの、和歌。しかし、妖力が尽きた……しばらくはまともに動けん」
和歌は猫又の所へ移動し、地面に座り込む猫又に声を掛けていた。
妖力も殆ど使い切り、喋るのも億劫そうで。猫又は肩を上下させて息をしている。
「随分とお疲れだな。普段ぐうたら生活してっからだ」
「あれだけ力を使って動けるお前がおかしいんだの。体力馬鹿と一緒にするでない」
「動けねぇのに口は元気で何よりだ」
供助も猫又の所へと集まり、冗談を交えて無事を確認する。
「それに猫又、気付いたか? ケガレガミの相手をしてて気付くの遅れたが……」
「うむ。天愚が張った結界の気配が消えておる。南もやったようだの」
「だいぶ弱ってるが南の霊気も感じる。しっかり意地を通したな、アイツ」
森に投げ飛ばされた時に見た南は、ボロボロで傷だらけ。それでも自分の敵は自分で倒すと言い切った。
それをしっかりと実現させ、白星を勝ち取った事に安堵する。少し気掛かりだったが、供助は小さく笑みを零した。
が、すぐに表情を一転させる。
「これで無事解決……って訳にゃあ、いかねぇよな」
わざとらしく、小さく一呼吸。
そして、僅かに細めた視線を向ける先。
「お前等、一体なんだ?」
そこに居たのは、悠一と結花。
ケガレガミは倒した。子供達も無事だった。しかし、これで大団円、とはいけない。
まだ残っている問題があり、その答えによっては……。
「太一達を守ってくれたのには感謝してる。けど、それとこれは別だ。はっきりさせねぇとな」
「お、おい供助! もしかして悠一と結花ちゃんを疑ってんのか!」
疑いの念を払拭できないと、警戒も解かず。供助は率直に聞いた。
しかし、それを聞いた太一が供助の肩を掴む。
「半々だ」
「俺達を守ってくれたんだぞ! それで充分だろ!」
「結果的に、って事もある。俺と猫又が弱っているこの状況を狙っていたとしたらどうする?」
「ッ!? でもよ……!」
供助が言ってる事は解る。文化祭前夜の一件で人外の怪異がどれだけ恐ろしいのかも、理解している。
そして、結界を張れた悠一と結花が、普通の一般人とは異なるというのも。
でも、助けてくれた。体を張って、危険を顧みずに、助けてくれた。理屈は分かっても感情が納得してくれない。




