心核 -オオヅメ- 弐
「ギィィィィイッ!」
しかしながら当然、本体へと向かってくる邪魔者に対し、ケガレガミが抵抗しない訳がない。
本体まで後10メートル。距離はまだある。このまま一気に駆け抜けたいところだが、そうもいかない。
触手は元に戻り始め、既に道の先が閉じられてしまっていた。
「ちっ!」
「やはり戻りが早いのぅ!」
このままでは数の暴力で飲み込まれる。供助の攻撃でもう一度吹っ飛ばそうにも、力を溜める時間が無い。
供助達の後方も触手によって塞がれた。逃げ場も失い、一寸先は黒。
二人を囲い込んだケガレガミは、輪郭のないのっぺりとした口で、にたりと口を歪ませた。
ズン――――ッ!
その刹那。何か重い衝撃が、地に響く。
同時に、ケガレガミから笑みが消えた。
「ドンピシャだの」
代わりに次は、猫又の口元が上がる。
「結花、無理するなよ!」
「今は無理をしなきゃいけないのよ、悠一!」
ケガレガミの数十センチ先に具現された、青白い壁――二重結界。
悠一達が張っていた結界の外側に、さらなる広範囲の結界を展開したのだ。
範囲を広くした分、強度は下がる。だが、それでも効果は得られる。
これで一つ目の結界と二つ目の結界の間にあった触手は、結界と結界の間に閉じ込められる形となる。
しかも、ただ閉じ込めただけではない。結界の効果は対象の干渉を遮断する。
二つ目の結界の内外、その境で触手は本体と断たれる。要はギロチンのようなもの。
「守りの結界を攻めで使うなんてな。よく思い付いたもんだ」
「それも、結界内の感知能力まで最大限に活かしてる」
米噛みの血管が浮かび、体に掛かる負担など構い無しに。悠一と結花は合わせる手の力を強める。
ケガレガミは切断された触手を遠隔操作する事が出来た。ただ攻撃しただけでは何度も増えて襲ってくる。
だが、結界内に閉じ込めれば話は別。対象の干渉を遮断する、この結界ならば。
遠隔する為の伝達も、妖力の補充も、両方を同時に遮断する事が可能である。これで大半の触手は無力化され、あとは勝手に弱まって消えるだけ。
さらには結界内の感知。結界内の触手の中にケガレガミの核があれば、強い力の反応を悠一と結花が感じ取る事が可能になる。
「供助! 猫又さん! 結界内には核らしきものは感じ取れない!」
そして、そこに無ければ無いで。
「やっぱ本体近くか。猫又、先に行け!」
「言われんでも!」
大量の触手が一気に削がれ、的がかなり絞れたという事。
結界内に分断された触手は機能を失って徐々に塵となっていくも、多くがまだ消えずに残っている。ならばと、機動力が高い猫又は一気に飛び越して先行する。
黒い着物の袖付けを靡かせ、触手の上で風を切る。
「好機は逃さんッ!」
「ギィィ!?」
二重結界を抜けたと同時。猫又は両手を大きく薙ぐ。
その量の手には炎が放たれ、ケガレガミが動くよりも先に。猫又は自分の炎で結界もどきを展開する。
ケガレガミと猫又、その周囲を囲って激しく燃え盛る紅炎。
太一達を守る時に使った技、火廻を今度は本来の方法で使用する。
「悠一と結花ほどではないが、閉じ込める技なら私も持っておる」
ケガレガミが対応する前に速攻を仕掛けた甲斐があった。
上手くいった事に小さく鼻で笑い、足の爪先で地面を小突くと。囲っていた火廻の火力が強まっていく。




