五人 -コドモタチ- 漆
「猫又さん、この結界の中なら安全なんですよね? なら、供助君と猫又さんが回復するのを待った方が良いんじゃ……?」
無理して戦わず、まずは休息を取ってからの方が堅実だと。和歌は提案する。
確かに猫又は妖力の消費が激しく、供助も投げ飛ばされた時のダメージがまだ残っていた。
綱渡りの戦いをして危険を冒すよりも、安全に回復を図った方が良い。それが手堅く危険の少ない手だろう。
だが、それは最善ではない。
「それは出来ん」
「ど、どうしてですか?」
「今考えるべき最悪は、別の場所で戦っている南が負けて、その敵がケガレガミと合流する事」
「南さん、いないと思ったら一人で戦ってるんですか!? じゃあ、その仲間がこっちに来たら、敵二人と戦わなきゃ……」
「違う」
「えっ?」
「経緯は省くが、もう一人の敵とケガレガミが協力し合う事は無い。恐らく一対一対二、という形になるだろうの」
ケガレガミは好き勝手に動き、天愚はそれに便乗し、その両方と供助と猫又が戦う。
しかし、一番の問題はそこじゃあない。
「和歌達がいきなりこの場に現れたであろう? その理由は彷徨いの効果がある結界。それがこの周囲を囲むように張られている」
「あ、おかしいと思ったらやっぱり……そういう理由があったんですね」
「うむ。そして、今までの行動を見るからに、恐らくだがその効果はケガレガミも対象となっている筈だの」
「それがなにが問題なんですか?」
「もう一人の敵が山を囲む結界を解いて、|ケガレガミを街に放つ事。これが起こってはいけない最悪だの」
「ッ!」
想像して、和歌は青ざめる。
人を喰おうとする妖怪。しかも体から大量の触手を作り出し、広範囲に蠢き這い回る。
これが街に放り出されてみろ。子供四人なんて比じゃない。沢山の食い散らかしが街のそこらに転がる。
「ま、安心しろ和歌。さっきちょろっと南を見てきた。今にも死にそうな顔をしてたが、死んだ目はしてなかった」
「死にそうな顔って……ほ、本当に南さんは大丈夫なの?」
「負けねぇよ。あいつも払い屋だ。しかも、俺と違って正規雇用だしな」
バイトの俺よか給料を貰ってる。なら、俺よりいい働きをするもんだ、と。
供助は南の敗北を微塵にも考えず、言葉と態度で信頼を見せた。
「そんで、ゆっくりしてられねぇ理由がもう一つ。南が先に向こうの敵を倒した場合でも、結界が解けちまう」
「……あ」
そう、そうなのだ。結界を作って張っている敵が倒されれば、当然消える。
ならば無効よりも先に、こっちのケリを付けなくちゃならない。
状況としても、戦力としても――先輩としても、だ。
「……よし」
考えがまとまり、猫又は小さく顎を落とす。




