五人 -コドモタチ- 陸
「なんか状況はよく分かんねぇが……悠一、そん中は安全なんだな?」
「ああ! 結界の中ならケガレガミは入ってこれない! 太一達は大丈夫だ!」
「そんじゃ周りは気にせずにやれるって訳だ」
両手の軍手をはめ直し、気合を入れ直す。
そして、ケガレガミへと挑発的に。小さく笑って見せた。
「ギィィィィィィイイイイイィイィィィィイッ!!」
「はっ、お触り出来る俺から喰おうってか!?」
大きく肩だけを回して軽くほぐして、両拳には霊力を込めて。
結界の周囲に残っていた触手は標的を変え、供助はそれを迎撃する。
森へと投げられた際の落下による痛みもまだ残り、疲労も溜まって辛い状態ではある。ある、が。
自分よりボロボロだった後輩が助けを拒み、意地を見せて啖呵を切ったのだ。
「やわっけぇなぁ! 撫でただけだってのによ!」
ならこっちも、意地でも負ける訳にはいかねぇよな――と。
殴り、払って、小突いて、叩き落とす。
絶え間なく襲ってくる触手の数々を、供助は両手だけで捌いていく。
「供助のヤツ、一人で触手をどんどん倒してる」
「それも手だけでだよ。凄い……」
「さっきの一撃と今の戦いっぷり。これ、行けるんじゃないか?」
「でも、供助君だけじゃ多勢に無勢だよ」
その荒々しくも頼もしい戦いっぷりに、太一と祥太郎は驚嘆を隠せない。
しかし、やはり数が数。祥太郎は不安の目を向けている。
「あれ? 急に振り返ってこっちに走ってくる」
すると、突然。振り返って走ってくる供助の姿を和歌が見た。
そりゃもう、全速力で。後ろから触手に追っかけられながら。
「やっぱキツイ!」
供助が結界に入ると、触手は結界の境で電気を流されたように弾かれた。
「おー、すっげ。本当に入って来れてねぇ」
「あんだけ格好付けといてなんだの! 速攻で逃げて来おって!」
「いや、さすがに一人では無理だろ。あの量を見ろよ、あの量を」
「だったらば初めから見栄を切るでない!」
結界の外に見える無数の触手を指さす供助に、呆れかえる猫又。
せっかく格好良い登場をしたのに台無しである。
「で、なんぼか時間は稼いだ。なんか思い付いたか?」
「……ふん。まぁの。だが、決め手がない」
「決め手?」
「ケガレガミの妖力切れも狙えるかと思うたが、触手の数を見るに奴にはまだ余力があるだろうの」
「って事は、前に行ってた核を狙うしかねぇか」
「そうなるの。だが、言ったように決め手が無い。奴がまだ無数の触手を出せる以上、核の破壊を狙うしかないが……核が体内を自由に移動出来るとなれば、かなり困難だの」
「……もしかしたら、手はあるかもしれねぇ」
「なに?」
供助は己の右手を見つめ、拳をゆっくりと開いて、また閉じる。
何かを確かめ、感覚を思い出すように。
「的を絞れさえすりゃあ……核を見付ける方法がある」
「的を絞ると言っても、程度によるの」
「まだ俺も思い付きに近い状態だ。正確な基準は解らねぇが……奴の今の大きさぐらいなら、いける」
「人間一人くらいの大きさ、か。こちらの体力は限界寸前。さて、どう動くかの」
猫又は顎に手を当て、頭を回す。思考を回す。
今、この現状で出来る最善を。残った手札を活かせる最良を。
起こりうる最低を想定して、行える最高を考え出せ。




