五人 -コドモタチ- 伍
結花の黒かった瞳が、徐々に藍色へと変色していく。
同時に結界の力が増していき、残った群がる触手は例外なく燃え去っていった。
「猫又さん! 早くこっちへ!」
「ぬっ!?」
悠一の声に、硬直が解かれる猫又。
悠一達の周囲にあった触手も消え、ケガレガミ本体も予想外の展開に攻めあぐねていた。
今ならば邪魔をされずに悠一の所へと行ける。
「ふん、がぁ!」
子供達を担ぎ直して、猫又は気合で一走する。
「これは……私が入っても大丈夫かの?」
「それぐらいの識別は出来ますよ」
神力で作られた結界。妖怪である猫又は、触手のように拒否されるんじゃないかと少し戸惑う。
その様子を見て微笑する悠一。結花と同様、悠一も瞳に色が藍色になっていた。
「ッ! この結界の感覚、祭りの神社と同じ……!」
結界内に入ると感じる、済んだ透明感のある空気。
肌に触れる感覚が、あの祭りを行っていた神社と全く同じであった。
「まさか、お前達は……」
「猫又さんは休んで下さい。少しでも妖力の回復を!」
担いでいた子供達を地面に寝かせ、ある事に感付いた猫又の言葉を遮ったのは悠一。
気付けば結界の周囲には、再びケガレガミの触手が取り囲もうとしていた。
「和歌ちゃん達は子供達をお願い!」
「わ、分かったわ! 結花ちゃん!」
結花に言われ、和歌、太一、祥太郎は子供達の傍へと駆け寄る。
悠一と結花がなぜこんな事を出来るのかは分からなかった。だが、起きている状況は理解していた。
怪異の存在を知った三人だからこそ、いま自分達に出来るのは下手に動かず邪魔をしない事だけだと。
「ギキィキィキィギィ……!」
奥歯を横ずらせ、忌々しいと歯軋りするケガレガミ。
黒い影のような体をぞわぞわと蠢かし、次々と触手を地面に這わせていく。
ケガレガミとて長い戦闘で妖力は限界近くな筈なのに、さらに自身の手勢を生み出す。
物量で押し込み、消耗戦を狙ってか。結界の周りは黒一色。結界が水中へと徐々に沈んでいく車のよう。
「俺達じゃ奴を倒す事は出来ない。でも……!」
「あなた達は絶対に傷つけさせない! 守りは私達に任せて!」
押し寄せる触手の波に、結界から通して掛かる多大な負荷。
両手を合わせ、奥歯を噛みしめ、険しい顔で。
悠一と結花は自分が持てる力を振り絞って、黒い影を拒絶する。
「そうかい」
不意に、聞こえた声。
「じゃあ攻めは任せなッ!」
森の中から一気に飛び出し、触手が蠢く泉へと突っ込んで。
力を溜めて、力を込めて、力の限り。思いっ切り振るった、力任せの一撃。
「だぁらぁぁぁぁっ!」
発声と共に地面に打ち付けられた拳を中心に、黒い影は一気に吹き飛ばされて一掃される。
それはまるで台風の目。拳を打った衝撃と、その余波。霊圧と言えばいいか。
爆弾が爆発した際に生じる爆風のように、拳撃から発生した衝撃が霊気の風となったのだ。
「やっぱな。相変わらず数が多くても、目に見えて柔くなってんな」
地面から拳を離し、ゆっくりと立ち上がって。
おもむろに右手で前髪を掻き上げるのは。
「供助!」
「供助君っ!」
猫又と和歌が同時に、その名を呼んだ。




