五人 -コドモタチ- 参
「その炎が奴の触手を防いでくれるの。私は子供たちを助けに行く。すまんが、少しだけここを離れる」
残り少ない妖力を割いて使用した火廻。
猫又の手足に入る力は弱くなり、疲労がさらに増す。
それでも動かなくては。誰一人として死なせる訳にはいかないのだから。
「ぬんッ!」
猫又は体に鞭を打ち、脚に妖気を纏って一足飛びをする。
ケガレガミよりも猫又の方が遥かにスピードがある。が、奴も邪魔な猫又に対して何もしない筈がない。
猫又の動きに気付いたケガレガミは、体の一部を伸ばすその先端は。斧の様な形状で切先を振るう。
「妖力も少なく、お互い大技は出せんか」
「ジャジャ、マ、マァァァァァア!!」
車で言うなら給油ランプが点滅している状態。
ケガレガミの繰り出してきた触手の劣化具合に、自嘲も含めた小さな笑い。
「だが、小技を上手く使えるのも良い女の条件だの」
ケガレガミの攻撃は苦し紛れにも近い。技術ではなく物量で押すタイプだったのが、一本の触手のみ。
この何十倍の数に抵抗していた猫又は容易く回避し、ケガレガミを追い越し際に――。
「こんな風にの」
右手に纏わせていた炎を、ケガレガミの顔面に振りかけた。
「イイィィギギィィィィ!?」
火力も低く、他の部位に燃え移りもしない。
しかし、燃やされた顔だけには酷くしつこい燃え方をする。
ケガレガミが頭部を振っても、腕を作って払っても、なかなかに消えない。
「これで幾ばくか時間は稼げようて」
消費妖力は抑えて、且つ効果的に。
今の灯火は火力を抑えた分、燃焼が長くなるように調整したもの。
これでケガレガミの視界を遮断して、今の内に洞窟へと一気に向かう。
「奴の寝床とも相まって、空気が悪いの……」
洞窟というだけで通気性が悪いが、ケガレガミの毒気も合わさって、空気が淀んだ感覚がする。
猫又は手で鼻を抑えながら、奥へと急いでいく。
「おった……!」
最奥で横たわる子供が数人。気絶していて顔色も良くないが、息はしている。
天愚はあとで子供達をケガレガミに食わせると言っていた。ならば、死なない程度には気にかけていた筈だ。
生存確認は出来た。だが、安全とは言えない。ケガレガミが追ってくる前に子供達を連れて出なければ。
「ひい、ふう、みい、よ……うむ、四人おるの」
会った時に聞いた話では、三人の子供が行方不明になっていると言っていた。
そして、祭りの最中に攫われた一人。計四人。全員揃っている事に安心する。
二人ずつ片腕で担ぐも、普段ならば余裕でも今は辛く。それでも猫又は奥歯を噛んで根性を見せる。
「ふん、ぬっ!」
猫又は再度足へと妖気を込め、出口へと急ぐ。
子供を抱えている以上、本来のスピードは出せず気を遣わねばならない。
出口はもうすぐ。ケガレガミの姿もまだ見えない。これなら間に合う。




